第305話近江の国の生霊の話(完)今昔物語
そんなことがあった二日後、男は東国への道を歩きながら、あの不思議な女に教えられた場所の近くを通りかかります。
男は、
「あの不思議な女の言ったことは、本当なのだろうか、確かめてみよう」と思い、尋ねてみることにしました。
すると、本当にそのお屋敷があるのです。
立ち寄ってみて、取次をお願いすると
「それは確かにそういうことが、あったのかもしれません」とお屋敷の中に招き入れられます。
そして例の不思議な女は確かに、そのお屋敷の中におりました。
女は簾越しに
「このあいだの夜は、ほんとうにうれしく思います、永遠に忘れることができません」と語り、食事も差し出され、絹織物と布織物も差し出してくるのです。
男としては、本当に恐ろしく思うのですが、断ることも恐ろしく、そのまま受け取って東国に下ることにしたのです。
このように、生霊というものは、単に魂が他人に乗り移って様々なことをすると言われているけれど、本人がはっきりと承知している場合もある。
さて、実は、この女は殺された民部大夫の妻だった。
しかし、理由は不明であるけれど、民部大夫に捨てられたとのこと。
その怨みから、生霊となって、元夫を取り殺したと言われている。
捨てられた女の怨みとは、これほどまでに怖ろしいと、語り伝えられているのである。
※生霊は、人の霊魂が自由に身体から抜け出し、他人に祟るなどの行為を行う。
源氏物語には、六条御息所の生霊が出産時の葵の上に取りつき、本当に苦しめている。
ちなみに、夕顔にとりついた悪霊は、六条御息所とは、いっさい書かれていない。
また、枕草子にも「恐ろしきもの」で生霊と書かれている。
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