第304話近江国の生霊の話(2)今昔物語

女が突然、煙のように消えてしまい、

男は

「本当に不思議なことがあるものだ」

「門が開いていれば、門の中に入ったと思うけれど、門は閉まったままだ」

「これはどうしたことだろうか」

と思い、髪の毛が太くなる(※恐怖の古代表現)ほど恐ろしくなり、足もすくみ、そこから動けなくなってしまいました。

そうこうしていると、お屋敷の中から、突然泣き騒ぐような声が聞こえてくるのです。

いったい何が起こったのかと、様子をうかがっていると、人が死んだような気配がします。

これはおかしなことだと思い、しばらく門の前を行ったり来たりしていると、夜も明けてきました。

「何が起こったのか、事情を聞いてみよう」と、夜が完全に明けてから、そのお屋敷にいる知人を呼び寄せて、今朝の話を聞いてみると、その知人が答えます。

知人

「実は、このお屋敷のご主人の近江の国におられる奥様が、ご主人に生霊となって取り憑かれたというお話がございまして、ここのご主人は数日来、体調を崩されていたのです」

「そうしたら、今日の明け方になり、ご主人が『生霊が現れたようだ』とお話になられているうちに、突然お亡くなりになってしまいました」

「生霊というものは、本当にこんなふうに、人をとり殺すものなのですね」と語ります。


男は、こんな話を聞いてしまい、得体のしれない頭痛を感じます。

「あの不思議な女は、たいへんな喜び方だったけれど、この頭痛はその毒気の関係かもしれない」と思い、その日の出発は諦め、家に戻ったのです。

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