第296話美幸の恋(2)

美幸はいろいろ考えた。

「そうだなあ、毎日来るとは限らないけれど、もう少しボリューム感にあるのも作るかな、あの子のために」

「そうなると、若い子だから熱々のカツ丼とかの丼ものをまず作る」

ということで、丼もの系で

「カツ丼、親子丼、玉子丼、中華風で中華丼と麻婆丼」を作った。

それが、案外年寄り連中にも好評で、売上も増えた。

「へえ、年寄りでも食べるんだ」と思い、少し驚いている。

馴染みの爺さんからは

「そうさ、たまにはカツ丼だって食べたいさ」

また婆さんからは

「麻婆丼は、もう少し辛くてもいいかなあ」

そんな指摘までもらい、またしても「へえ・・・」となる。

それもこれも、あの若い子が来だしてからである。

そしてメニューを増やしたら、通りがかりのサラリーマンや学生も買っていくようになった。

結局、売上も増えたのである。

「そうかあ・・・あの子は福の神だったんだ」と美幸は思う。


さて、そんなことを思い、ニンマリとしている美幸の前に、「福の神」が立った。

「はい、いらっしゃい!今日はどうするの?」

美幸は、ますますウキウキである。


その福の神は

「えーっと・・・いろいろあって・・・増えましたねえ・・・どれも美味しそう」

「うーん・・・今日はカツ丼いただきます、美味しそうなので」

ちょっと悩んだり、微笑んだ顔が、本当に愛らしい。

美幸は、ちょっとブルっと震えてしまった。


「はーい!カツ丼ね!」

身体が震えたついでに、声も震えてしまっている。

渡すと同時に

「毎日、ありがとう!」

「本当にうれしい」

ついつい本音である。

そして

「お名前聞いていい?毎日だからお名前で話ししたいなあって」

一歩踏み出してみる。


するとその福の神は

「えっと・・・悠っていいます」

ちょっと恥ずかしげな顔。

美幸は

「うん、私は美幸っていうの、今度からは名前で呼んでね!」

元気そのものである。


悠は

「はい、美幸さん!いつもありがとうございます」

「それから、すっごく素敵です、美幸さんの笑顔が大好きです」


まあ、本当にうれしいことを言ってくる。

「もう!三十近いの!からかわないの!」

そんな言葉を返しながら、美幸は真っ赤になっている。

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