第292話春麗物語(6)

お屋敷で宴会があるたびに、その顔を曇らす雅と春麗に、さらに新しい悩みが加わりました。


お屋敷のご主人が、満面の笑みで雅に話しかけるのです。

「どうやら、私のこの屋敷に別棟を建てるどころではないよ」

「私の扱う商品の最大の納入先の商家のご主人と、その娘さんが雅君に相当なご執心だ、つまり縁談というとだ」

「ああ、縁談と言っても、その商家を嗣ぐということではないよ」

「その娘さんは、三女なので、ただご実家から金が入り、裕福に暮らすだけ」

「どうかな、雅君、私としても名残惜しいけれど」

「あの商家のご主人に是非と言われてしまっては、断りづらくて」


雅は、本当にためらいます。

「いえ、そう言われましても」

「私はいずれは、和国に帰る人間です」

「和国の帝とも、そういう約束で」

「和国には、私の身を案じている老いた両親や兄弟もおります」

「このお屋敷で受けた御恩については、心から感謝をしております」

深く頭を下げた後、雅はその顔をあげ

「和国の大使と、十分に話し合いをしてからの、返答でよろしいでしょうか」

お屋敷のご主人に応えるのですが・・・


お屋敷のご主人は、雅の言葉には全く理解がないようです。

どれほど、雅が誠意をつくして、再考をお願いしても、その首を縦にふりません。

そのうえ

「そんなことを言われたら、このお屋敷が困ることになる」

「雅君は、どう責任を取ってくれるのか」


満面の笑顔から、厳しくその顔を変え、雅を責めるのです。

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