第291話春麗物語(5)

春麗が雅と一つのベッドで眠ることになったとしても、あくまでもお屋敷の「客人」と「お世話をする係」との関係。

それが夫婦となるようなお約束ではありません。

二人の間には、「和国の大臣の御子息」と「唐の国の一地方の庶民の奉公娘」という、厳然とした「身分の差」の壁が消え去ることもありません。


現に、お屋敷で宴会が催されれば、雅は必ず出席、雅を目当てに集まる「良家の娘」のお相手をこなすのです。

また、雅を目当てに良家が集まることから、お屋敷の主人の商売相手も著しく増えるのです。


お屋敷の主人は、ますます喜びます。

「いやはや、一年と言わず、この屋敷に何年でもいて欲しい」

「どこか良家の娘を娶り、この屋敷の敷地に別宅を建ててもいい」


しかし、そのうえで、雅と春麗の心を逆撫でるようなことを言うことがあります。

「できれば、とりわけ良家の娘を娶り、何人も子をなし、この家に」


そんな生活が続き、雅と春麗は宴会のあるたびに、顔を曇らせるようになりました。

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