第288話春麗物語(2)
和国からの遣唐使にして美しさ極まる学生の雅は、宴会終了とともに、お屋敷を去っていきます。
そして、彼の乗った車は、贅を尽くしたご立派なもの。
そのうえ、おそらく、誰か位の高いご婦人と一緒の様子。
見送りに出たお屋敷に仕える女の子たちは、全く手も足も出すことができません。
もちろん、それは春麗も同じこと。
「これはあきらめるしかない、和国とはいえ、大臣の御子息」
「貴婦人に誘われれば、それは仕方がないこと」
「こんな庶民の私では釣り合いがとれない」
「恋をしたところで、私には老いた両親もいる」
「海を越えて遠い和国などに行けるはずもない」
「でも・・・何か機会があれば、その時にでも」
そうやって懸命に、心を断ち切るのです。
そんな宴会の数日後、突然、雅がお屋敷に訪ねてきました。
何でも和国の大使より御手紙を預かり、お屋敷のご主人に渡す用事があるとのこと。
突然の雅の姿に、屋敷に仕える女の子全員が、顔を赤らめ浮足立ちます。
もちろん春麗も、それは同じこと、ドキドキしてしまって何もできません。
少し困ってしまった雅は、
「あの、申し訳ありませんが、これも和国の用事でございます」
「誰か取り次いでいただけないでしょうか」
美しく響く声で頼みかけてくるのです。
春麗はこの時
「ここでためらっている場合ではない」
「これは大切なお仕事」
思い切りました。
そして、小走りで雅の前に。
「助かります」
「私もこういう仕事には不慣れで」
雅は申し訳なさそうに、春麗に少し頭を下げます。
春麗は
「いえ・・・こちらこそ・・・申し訳ありません」
「お手間を取らせまして」
そう言いながら、その顔は真っ赤に染まります。
雅が
「それでは」と大使からの手紙を差し出すと
「あ・・・」
春麗は、小さな声を上げてしまいました。
「え・・・」
雅も驚いた様子で春麗をまっすぐに見つめます。
二人の指が かすかに触れ合っている。
ただ、それだけのことなのですが・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます