第278話晶子と出張(9)
出張の宿泊先が「晶子の実家の古くからの旅館」と聞いて、俺は呆れた。
いや、呆れたというよりは、自らの確認不足に腹が立った。
「晶子さん、それこそ、公私混同の極みでは」
「そういうことなら、事前に話して欲しい」
「仕事は仕事、プライベートはプライベートにしないと」
ついつい晶子に強めの口調。
出張の話が決まった時の上司の意味深な顔も思い出したし、晶子の満面の笑顔の長電話も思い出した。
晶子は
「申し訳ありません、しっかりとお伝えしてなくて」
少し涙ぐんでいる。
俺は
「まあ、仕方がない、出張の宿泊経費規定以上の金額は、俺が払う」
「それだけは守ってくれ、お昼のような特別待遇はやめてくれ」
そこまで言って、黙った。
何しろ、晶子の実家に行くのだから、泣き顔は困る。
少し黙っていると、晶子が俺の手を握ってきた。
そして、
「あの、宿泊代金はいりません」
「上司も了解済みです」
変なことを言ってきた。
俺は
「え?意味がわからない」と返すけれど、晶子はククッと笑う。
そして今度は晶子が黙った。
しばらくすると、格式が高そうで値段も高そうな、いかにも京都風の旅館にタクシーが入っていく。
「ここかい?」
俺が尋ねると晶子がコクンと頷く。
そして晶子は
「あら、玄関まで・・・」
晶子の言葉で旅館の玄関を見る。
そして、腰が抜けるほど驚いた。
「あ!我が社の創業者のご夫妻!」
玄関前には、俺が務める創業者にして理事長の老夫妻と、晶子の親らしい夫妻が立って待っている。
「えへへ・・・孫なの」
晶子は、俺の手をギュッと握ってきた。
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