第275話晶子と出張(6)

晶子に案内された昼食の場所は、「え?」と思うほど「高そうな」料亭だった。

「晶子、マジか?経費で落ちない、こんなところ」

と小声で言うけれど、

晶子は笑って

「はい、全然、大丈夫です」

全く取り合わない。


首を傾げていると、現地支社の役席が

「心配はいりません、晶子さんのご縁のあるお店です」

「高そうに思われますが、普通のランチも出しています」

と教えてくれるので、少しホッとする。

ただ、それでも「公私混同では?」という思いも消えない。


個室に通され、三人で席に着くと、さっそく料亭の女将が挨拶に来た。


「これはこれは、わざわざ東京から」

「晶子がいつもお世話になりまして」

本当に丁寧に頭を下げてくる。


「ああ・・・はい、こちらこそ・・・」

無粋な俺は、ここでも気のきいた挨拶を返せない。


そして顔をあげた女将を見て驚いた。

「どこか、晶子に似ている、そういえば縁があるって聞いた」と思うけれど、余計なことを言って笑われても困るので、黙っている。


晶子が口を開いた。

「晃さん、私の叔母です」

そして、少し笑い

「叔母さんは、ランチの料金しか取りませんので」


俺は驚いて

「え?」

となるけれど、こうなっては仕方がない。

出されるものを、度胸を決めて食べようと思っている。

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