第274話晶子と出張(5)

京都駅で新幹線を降りる直前まで、晶子との「ひざ掛けカップル」は続いた。

「これだと、他人が見れば、かなり近い恋人同士だ」と思うし、恥ずかしいけれど仕事前に気分を害するようなこともできない。

それに今回の仕事場所は、晶子の実家近くなので、一層気を使う。


「じゃあ、そろそろ」

声をかけると、晶子は

「うん、残念、晃さん温かかった」

と言い、ひざ掛けをバッグにしまう。


新幹線を降りると現地支社の役席が迎えに来ていた。

「わざわざ、ご苦労様です」

頭を下げると、晶子も仕事の顔に戻り、俺にならい頭を下げる。

現地支社の役席は

「ああ、いえいえ、こちらこそ、よろしくお願いします」

少し深めに頭を下げる。


その後は現地支社の会議室での情勢分析をキッチリ行い、周辺の同業他社の情報収集を兼ねて、説明を受けながら京都市内を歩くことになった。

晶子は、ほぼ無言、俺と現地支社の役席との会話をメモしたり、あちこち写真を撮ったり、なかなか忙しそうである。

でも、新幹線内で見せたような、「恋人顔」は全く見せない。

俺としては、それはそれで、ホッとするものがある。



お昼時になった。

現地支社の役席が、

「それでは、お昼は」

と言いかけると無言だった晶子が口を開いた。


「はい、予約済みですので、案内します」

晶子の目がパッと輝き、現地支社の役席は、クスッと笑っている。


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