第268話玄敏僧都の話(4)鴨長明発心集
さて、玄敏が郡司のところに雇われて三年が経過した。
ある時、この郡司の言動が国司に対して少々問題があるということが、国司の耳に入ってしまった。
そしてその結果、郡司は国境から追放処分となってしまった。
郡司としては、先祖代々この土地で暮らしており、所領も多く使用人も多い。
他国に出ていくことは、誰にとっても悲嘆極まりない。
しかし処分を逃れることなど、何ら術はない。
結局、泣く泣く出国の準備をしている。
さて、玄敏は、郡司に起こった話を郡内のある者に会い
「ところで郡司様は、何の問題があったのですか」と聞き出そうとします。
その答えは
「お前のような賤しい身分の者が聞いてどうするんだ」と関係がないのだから教える気もない様子。
そこで玄敏は
「いや、身分は関係ないでしょう、私は郡司様にお使えして何年にもなります、その仲間にでも入れてくださらないということは納得できません」と粘ったので、結局問題の内容については、欠かさず聞き出すことが出来た。
玄敏は、話を聞いた後
「私などが申し上げることを、すぐにお取り上げになる必要があるとは申しません」
「しかし、ただちにご出立なさる必要は感じません」
「物事というものは、えてして誤解ということがあります」
「それをはらすためには、まず京都まで行き、何度も正確な事実を申し上げるのです」
「それでも認められないのであれば、その時は仕方がない、他国へでもどこへでも行かれるのがよいでしょう」
「この私としても、多少の知り合いが国司のお近くにおりますので、その人を訪ねて申し上げてみましょう」
と、意見をする。
それを聞いた人々は
「すごいことを言う法師だ」とにわかには信じられないようであったけれど、主人である郡司にこのことを伝える人もあった。
郡司は、興味を持ったのか、この法師を近くに呼び、自ら法師に尋ねる。
そして本気で信じることもないけれど、他に方法がない。
結局、この法師を連れて京都に上ることになったのである・
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