第265話玄敏僧都の話(1)鴨長明発心集

桓武天皇の時代、奈良興福寺に属していた玄敏僧都の話である。

興福寺内でも、その学識により、名を知られた高僧であった。

しかし、俗世を忌み嫌い、寺中の煩わしい付き合いも嫌悪した。

結局、三輪川の辺りに小さな庵を結び仏道修行だけに明け暮れる生活を送っていた。


さて桓武天皇は玄敏の噂を聞き、宮中へ何度も参内を求めた。

玄敏も断りきれず、不本意ながら参内することになる。

しかし、結局参内そのものが、不本意であった。

桓武天皇の後の平城天皇の時に、大僧都の職を与えられたけれど、辞退をしてしまうのである。

その時の歌は

「三輪川の 清き流れに すすぎてし 衣の袖を またはけがさじ」

(三輪川の清らかな流れですすぎ洗ったこの袖を、俗世のことなどで二度と汚したくはない)

と、恐れ多くも帝に奉ったのである。


そして、いつの間にか誰にも知らせず(弟子にも下仕えにも知らせず)、その姿を消してしまった。

たくさんのひとが、しかるべき所を懸命に探すけれど、どこにもも見つからない。

日数ばかりが過ぎ、僧都の周辺は、嘆くこと限りがない。

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