第254話階下の圭子さん(4)

圭子さんの傷の手当は、消毒から薬の処方まで、とても丁寧だ。

「手当」も終わり、「本当に、なんとお礼を言っていいのやら」

まさに、本音を言うと


「いいよ、お礼なんて、痛かったでしょ」

圭子さんは、さっきの強さは消え、いつもの上品でしっとりお姉さんに戻っている。


「じゃあ、本当にありがとうございました」

「いつか、必ずお礼を」

俺だってお礼をしないと、気が済まない。

そこまで言って、立ち上がる。

それに何より破れた服では、バイトも探せない。

まずは、自分の部屋に戻って着替えなくてはいけない。


圭子さんは、そんな俺をじっと見つめてきた。

「ところで、何で焦っていたの?」

「階段を転がり落ちるなんて」


俺は答えに困った。

「お金が無くて食べるものがなくて、それでバイトして日銭を稼ぐために焦っていました」

それが事実だけど、そんな恥ずかしいことを言えるものではない。

しかし、圭子さんに、怪我の面倒を見てもらっておきながら、何も答えないわけにはいかない。

「えっと・・・スーパーに食材を買いに」

本当は、空虚な財布であり、買い物など出来る状態ではないけれど、そうでも言わないと、話が進まない。


「ふぅーん・・・」

圭子さんは、じっと俺を見つめてくる。

そして、

「ねえ、お腹減っているの?」

いきなり、核心をつく質問である。


「ああ・・・はい・・・そんなところで」

まあ、これくらいなら、素直に答えても、問題はないと思った。

そして、スンナリと圭子さんの部屋を出られると思った。


・・・が・・・しかし・・・


圭子さんは、不思議なことを言ってきた。

「じゃあ、お礼して欲しい」

「というか、協力してほしいんだけどね」

そこまで言って圭子さんは、ニコニコ笑っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る