第250話団扇(完)落語風?

さてさて、まるで拉致連行というか、そんな感じで新富町の後家さんの家にやってきた駒吉は、早速行水用のタライを作り始めるのでございます。

まあ、大した仕事ではありませんので、腕のいい駒吉なので、もうね、サッサと出来上がってしまいました。


駒吉

「あのぉ・・・後家さん、出来ましたよ」

「おいらも江戸の大工です、下手な仕事はしませんって」

「今日の夕方から、可愛がって使ってやってくだせぇ」

まあ、普通に、そんな声をかけるんですがね・・・・


それが・・・なかなか・・・後家さん、タダモノじゃあないんですよ・・・


後家さん

「あらまぁ・・・さっすがねぇ・・・駒吉さん!」

「アタシが見込んだってものがあるよ!」

「もう、出来上がったのかい?いいねえ・・・」

「まぁ、キレイにできているねえ・・・」

そこでね、後家さん、またシナシナとなるんですって・・・先が言いづらいけどねえ・・・でも、言わないと話が進まないんでねぇ・・・コホン・・・


「駒吉さん、ねぇ・・・早速、そのタライ、使ってみたいねぇ・・・」

「確かにキレイに出来てるけどねぇ・・・使ったらすぐにってねえ」

「親方のがそうだったもんだから・・・」

「ねぇ、駒さん、シツコイなんて言わないでおくれよ、わかるでしょう?・・・ウフン・・・」

後家さんは、変なことを言ってくるのでございます。


「エット・・・シツコイ?ウフン?アヤヤーーー」

駒吉もなかなか正気ではいられませんやって・・・

ああ、アタシもだよっって・・・コホン・・・


それでね、駒吉がね、それでも、必死に答えるんですって・・・


「へ?オイラの前に親方?」

「親方のタライが壊れた?」

「それがおいらの親方?マジ?」

「それで親方、このオイラに?ひっどい禿狸だねぇ・・・」

駒吉は、そう思うけれど


「まあ、親方がヘマして、おいらがまたヘマしたら、とんでもねぇ」

「わかりました!では早速!」

そうも思ったんですな・・・それが律儀な江戸前の職人なんですが・・・

どうやら、その先をトンと考えていない。


後家さん

「あらあら・・・さすが江戸っ子だねえ・・・」

そこで、ますますシナを作って・・・そこまではまだいい・・・

・・・なんとね・・・羽織った着物をスルスルとねえ・・・

もうね、後家さんの真っ白な背中が駒吉の目の前に・・・


はぁ・・・駒吉にあやかりてぇ・・・エット・・・この私もドキドキしちまった。


駒吉は、もうね・・・目をつぶって、井戸から水を汲んでね、後家さんの真っ白ヌメヌメ背中に、サーッとね・・・

後家さんも、ウットリでさぁ・・・


いや・・・え?ちゃんと目を閉じていたかって?

そんなの・・・野暮ですって・・・知りませんよ、そんなこと・・・ねぇ・・・

ああ、恥ずかしい・・・


でもね、お客さん、わかるでしょ?

駒吉の心には、お光だけなんですよ・・・

変なことを考えてはいけませんよ。

いやね・・・どうしてもね・・・そういうことにしておかないと・・・コホン・・・


もうね、駒吉は、これでやっと銚子が二本、メザシが二匹、豆腐は・・・まだ薄いかな・・・そう出世するかしないかの瀬戸際なんですからね、わかります?


いいですか?

よーっくここは心して聴いてくださいよ、お客さん。

変なことを、お光の耳にだけはね、入れてはいけませんよ

野暮はいけませんよ・・・


え?その後の後家さんと駒吉のこと?

知りませんって・・・

まあ、ご想像に・・・

でもね、大事なことはね、駒吉はお光が一番ですからね、そこだけは固く固く・・・


・・・コホン・・・


・・・ところで、お客さん、何で団扇で顔を?

                        

                                                                         (完)

                      

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