第248話団扇(4)落語風?

で、その新富町の後家さんがね・・・


「ねえ、あんたが駒吉さんかい、ねえ、親方にもお願いしたんだけどさぁ・・・」


まあ、しなしなと・・・年の頃なら二十四五?

まあ、こうね・・・色白で、目鼻立ちがキュッとして、その目も潤んじまって・・・

着ている服だって、まあ・・・これはこれは、オツだねえ・・・

何とも言えませんや・・・これは・・・よだれ・・・・って、親方なんかダラダラ・・・

もうね、親方は、隣に立っているだけで、メロメロなんですって・・・


さて、声をかけられた駒吉だって、大慌てですよ。


「ヘ?」

もうここで、声が裏返っちまって・・・


「シントミチョー?ゴケサン?」

「コマキチさんってダレ?」

まあ、最初っからこうなんだから、呆れるねえ・・・

自分の名前まで忘れちまってるんでさ・・・


ただね、新富町の後家さんは、まあ、不思議な人なんですよ。

こんなね、自分の名前も思い出せないような駒吉にね・・・

ま、スリスリと・・・


「それでさぁ、駒吉さん、あたいの願いを聞いておくれなさいよ」

「駒吉さんの大工の腕を見込んでさあ・・・」

「ああ、これは駒吉さんじゃなくてはねえ・・・」

「親方には十分、包んだしねえ・・・ああ、駒吉さんにも・・・」

「だから・・・オ・ネ・ガ・イ・・・」

なんてね、そのまま、白魚のような指で、駒吉の手の甲をツンですよ。

あらあら・・・見ている私のほうが、よろけちまうほどの色っぽさ。


そんなことをされた駒吉は、もう声は裏返り身体は宙返り・・・宙返りは無理ってもんですがね


「アヤヤ!シントミチョー!ゴケサン!」

「ヘ?ネガイ?ナンノカイ?アサリですかい?シジミ?」

まあ、呆れてものも言えないねえ・・・駒吉は・・・


後家さんは、まあクスクスと

「やぁねえ・・・駒吉さん」

「いいからね、私のお家でね」

「行水用のタライが壊れちまってねぇ・・・それを駒吉さんにね・・・」


駒吉

「タライ?一寸法師?アレアレ?ラタイ?ヘ?」

まあ、錯乱というか、悩乱のキワミですな。

それでも、ようやく周りを見て

「親方ーーーーー!」

まあ、救いを求めるんですねえ・・・


ところがね、よくしたもので、親方は姿をくらましちまってねえ・・・




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