第241話よしなしごと(1)堤中納言物語

その娘は、両親から大変可愛がられ、大切に育てられていたのですが、どうしたことか、相当の高位の僧侶に見そめられ、こっそりと妻にされてしまいました。

その高位の僧侶が、年の暮れに山寺に籠もると言い出し

「旅先で必要なので、ムシロ、畳、タライ、はんぞう(水を注ぐ容器)を貸してほしいのだ」と要求したことから、妻は、その要求通りに揃えて送ったのです。


さて、そんな話を妻が師としていた別の僧侶が聞きつけました。

その別の僧侶は、「それなら、私も物を借りるとしよう」と思い、高位の僧侶の文章を面白がり、自分でも書いています。(まあ、なんと呆れるほど俗っぽい)


唐や新羅に住む人、海の向こうにある不老不死の常世の国の人なら決してしないことでしょうね。

わが日本で言えば山中に住む田舎の貧しい人とか、官庁の使用人で貧しい人なら、そういうことは言うかもしれない、いや・・・たとえ、そんな人でも、そんな手紙は書きません。


さて、元々の師匠である僧侶が女に無心するなどという、呆れた手紙の文面は


「私は、この世がはかなくなり、どこかに籠もりたくなった」

「さて、そうは言っても決めかねている」

「富士山と浅間山の間の谷にするか、しかし、人が簡単に行けない場所が籠もるべき場所、そうなると日本国内では近すぎる」

「唐か新羅、あるいは、もっと先の天竺でも大地の上だ」

「雲の上に昇り、霞の中に飛ぶのが一番だと思うので、今は専ら準備をしています」

「ただ、どこに籠ろうとも、この身を捨てる気はありません」

「ただし、入用な物は多くなります」

「そこで、あなたとのお付き合いも長いことでもありますし、あなたの情け深い御心もよく存じておりますので、是非この機会に」

と、要求を書きはじめるのです。


「旅の支度に必要なものとして、まず必ず必要なものとして」

「雲の上に、雲を押し開いて昇るので、天の羽衣、是非探して貸してください」

「それがなければ、普通の衵、寝具、どうしてもなければ布でできた破れ袷でも結構です」

「それから、十余間(18メートル以上)の檜皮葺の建物」

「寝殿造りの、廊、表座敷、炊事場、車庫付きも欲しいのですが、遠い距離なので、持ち運びも困難」

「腰に結わえていくので、仮建築の家を一軒」


書かれた要求は、まさに、呆れるばかりである。

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