第239話不思議な光君(完)

翌日となった。

私は母からの「秘密兵器」を持ち、教室の中に。


しかし、そんな簡単には話が進まない。


「そんな渡すっていってもさ」

私としては、何とか光君の周りに群がる「奴ら」を除去したいのだけど、まあシツコク離れてはくれない。

こういう場合、私のような「日頃目立たない普通の子」は弱い。

下手に光君のそばに行って

「何?この子?」、「私たちの邪魔しないで」そんなことをチラリとも言われようなら、「秘密兵器」を渡すどころではない、スゴスゴわが座席となる。

そして、その後のチャンスも、近づく前以上に難しくなる。


「うーーーそれ以前の問題」

それで悩んでいるし、ポケットの中の「秘密兵器」をいじるしかない。

そんな状態が、午前中は続いてしまった。


午後になっても、私の「イザという時の引っ込み思案性格」は変わることがない。

ウジウジしながら何もできず、とうとう放課後に。


「だめか・・・鬼母になんと・・・」

これでは、昨日のような直帰は困難と思っていると、「あれ?マジ?」の事態が発生した。


なんと!光君が私を見ている。

そして・・・ヤバイ!歩いてくる。


そのうえ、

「ねえ、不思議な香りのものを持っているの?」

光君に話しかけられてしまった。


「えっと・・・えっと・・・母が・・・」

私は、言葉としては、それが精一杯。

オズオズとポケットから「秘密兵器」を取り出し、「もう目を閉じて」光君の手のひらに・・・その時点で足はガクガク。

周囲の視線なんて、まるで目に入らない、気にする余裕なんて何もない。


「すっごいなあ、温めて香る沈香だねえ、それに・・・いろいろ・・・」

光君は、ほめてくれたりする。

私は、ますますド緊張。


「でも、何かメモあるよ」

光君は、匂い袋の中のメモを発見したらしい。

「よろしかったら、作り方教えますって」

・・・読み上げているし・・・母め・・・恥ずかしいって!


「ねえ、僕、教えてもらいたいな」

「行ってもいい?」


「えーーーー!」

「うれしいけど・・・」

体全体がガクガクだ。



不思議な光君とのお付き合いが始まった瞬間である。

少々どころか、とんでもない「嫉妬の目」で見られたけれど、そんな気にしている余裕そのものがなかった。


その後、光君のご実家の仕事が判明した。

何でも、銀座でも有名な「お香」のお店にお勤めとのこと。

元々は、京都の「ご出身」らしい。

それで、不思議な香りや魅力が身についているのだと、判定した。


ただ、問題はある。

光君は、私よりは母と話が合う。

私が緑茶を出すと

「すみませんね、お茶の淹れ方も、この娘は粗雑で・・・」

母が言うけれど、

「いえいえ・・・」

光君は、ふんわりと私を見る。

「今度、僕が淹れてみます」


その後、光君が、家のキッチンで「お茶の淹れ方講座」。

確かに私の「粗雑」よりは美味だった。


・・・私も、何とか向上せねば・・・固く心に誓ったのである。  


                                (完)


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