第237話不思議な光君(3)

幽玄の香りを突き止めるべく、私は放課後はまっすぐ帰宅した。

悪友女子連中がケゲンな顔で「何なの?デートする相手もいないくせに」など、情緒のカケラもないことをホザクけれど、気にしてはいられない。


家に飛び込むなり、ソファで読書中の母上(こういう時だけ)にスリスリ。

「ねえ、お母様、あのね、お香なんだけどさ」


母上いわく

「なあに?お母様って気持ちが悪い」

「お香ってあなたが?まだわからないよ」

「あなたガキ娘でしょ?無理無理」

なんと、冷徹にして的を得た言葉ではあるけれど、そこは「押して押して」を貫くのが「私流」。


「いいからね、お母様、少し教えていただきたいの・・・」

「白檀でもない品の良い香りで和風というかアジア風の香り」

「ミント系でなく、幽玄っていうか」


母上いわく

「まあ、あなたが幽玄って、百年たっても無理だけど」

「だいたいわかるよ、私だって着付けの先生だし」

「おそらくね、沈香だと思う」

「で、それがどうしたの?」


「沈香」とまで言ってくれたのだから、「シメシメ」だけど、確認をしようと思った。

「お母様、家に沈香ってある?」

またしてもスリスリ・・・


「しょうがないなあ・・・たまには」

母上は、そういいながらお香は好きだ。

戸棚をガタガタして香炉とお香を引っ張り出す。


「うん、これが沈香」

母上は、沈香を炊き始める。


「わーーーー!あったり!」

このほのかな幽玄の香、まさに不思議な光君の香だ。

こうなると、ますます「シメシメ、突破口だ」になるけれど、母上が不思議な顔をする。


「で、ところで、何で?」

「あなたみたいなガキ娘が、沈香なんて無理」

「すごくかっこいい男とか、お美しい姫じゃないとさ」

「それとも?」

母上は、私の目の中を覗き込んでくる。

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