第232話鬼のくれた鬼女(完)

夜も明けた。

鬼が賭物の支払いとして置いていった女を見ると、やはり目もくらむほど美しい。

長谷雄としても「この世にこれほどの美しい女がいたとは」と動揺するけれど、一緒に暮らすうちに、心も通うようになった。

女の気性もやさしく、百日後に抱けるということが、本当に楽しみである。


しかし、八十日を過ぎた頃、長谷雄はどうにも我慢ができなくなった。

「百日とは言ったけれど、八十日も過ぎた、たいして違いはない」

そう思ってしまい、とうとう女を抱いてしまった。

しかし・・・

たちまちに、女は水となり消え失せてしまった。

長谷雄は、本当に後悔をしたけれど、今となってはどうにもならない。


その後、約三月ほど過ぎた夜ふけ、長谷雄は内裏からの家に戻る道で、かつての鬼男とバッタリと出会う。

そして、案の定、鬼は怒っている。

「長谷雄様を見損ないました、約束は違えないお方と思っていましたのに」

長谷雄としては、鬼が怒りのまま、襲ってくるような気持がしたので、北野天神に祈った。

「助けてください、天神様」


そうすると、祈りが通じたのだろうか。

天から声が聞こえた。

「しかたがないなあ、この鬼!消え失せろ!」

途端に、鬼男は消え失せてしまった。


この鬼男は、朱雀門に住む鬼。

鬼が連れてきた鬼女は、死んだ様々な女の良い部分を集めて人の形に作り、百日過ぎれば魂もしっかりと宿り、本当の人間になる予定だったようだ。

それを長谷雄が我慢しきれず八十日で契ったために、水となり溶けてしまったらしい。

鬼としても、悔しかったに違いがない。



・・・なんとか読み終わると、美佳はようやく機嫌をなおした。

「私は鬼女じゃないよ」

「私は、いつも晃にやさしい」

少し顔を赤くして、そんなことを言ってくるものだから


「フランケンシュタインみたいな話だけど」

「美佳は鬼女じゃないとすると・・・」

次に言うことを考えていると


「うん、抱いても溶けない」

美佳の顔は、ますます、真っ赤である。


・・・美佳の反応する部分と、俺の反応する部分が違うようだ。

                                  (完)

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