第223話上品な春香さん(5)
口やかましい母から、さらに口やかましいことを言われ、春香さんの「お屋敷」へ届け物を持ち、「伺う」ことになった。
さて、チャイムとかインタフォンを押すのも、俺のような無粋な若者では・・・と思うけれど、足は引き寄せられるように進み、とうとうチャイムまで押してしまった。
「あの・・・晃です」
ド緊張だけど、それぐらいは言わないと、誰が来たのかわからない。
そしてすぐに返事
「はぁい、晃君、お待ちしておりました」
春香さんの声、いつもと同じ、おっとり声が聞こえてきた。
すぐに厳しいご立派な扉が開くと、ピンクの花柄のワンピースに身を包んだ春香さんが、にっこりと微笑んで出てきた。
「さあさあ、入って」
「あ・・・はい・・・お邪魔します」
何しろ、玄関からシックかつ豪華である。
我が上京中のアパートと比べれば、天と地、靴を脱ぐ足も、もつれそうになる。
春香さんに案内され、それでもリビングに入ると、おそらく春香さんの母親だろうか、春香さんによく似た女性、しかも着物姿の女性が微笑んでいる。
「まあ、貴方が晃くん?私、好子です」
「あなたのお母様の美智子さんとは、学生時代、本当に仲良しでね」
「その美智子さんの息子さんが、春香と同じ大学って聞いたら、どうしても顔を見たくなってね」
割りと、ポンポンと話をしてくる、好子さんである。
そんな話を聞いていると、春香さんがお茶とお菓子を持ってくる。
「はい、今年の新茶です」
「お菓子はわかるよね」
春香さんは、クスッと笑う。
「はい、お茶も静岡の川根茶」
「お菓子は、虎屋の和三盆ですね、特徴があります」
そこまでは、言えるけれど、とにかくカチンコチンだ。
「さすがね、美智子さんの教育ですね」
「味覚も、お茶の飲み方も、作法通り」
好子さんは、目を細めるけれど、まだカチンコチン、教えこまれた作法通りにしかできないのが、実体。
「いえ・・・」
「それから、あの・・・母からです」
作法に従っているかどうかわからないけれど、母からの「届け物」をようやく、ここで渡す。
「あらあら・・・そんなこと、気にしないでいいのに」
好子さんは、頭を下げ、丁寧に母からの届け物を手にする。
その中身もすぐにわかったようだ。
「うん、美智子さんらしいなあ、素敵だなあ」
いろいろ、うれしそうな顔をするけれど、俺にはよくわからない。
黙っていた春香さんが、ようやく口を開いた。
「ねえ、晃君、今日は家で、お夕飯していってね」
「私、頑張って作ったから」
「え・・・はい・・・」
「ありがたいです・・・」
でも、今は午後二時・・・それまで・・・何を?
これで、案外戸惑っている。
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