第219話上品な春香さん(1)

やはり試験が近くなると、ナマケモノの俺も少しは勉強しようと思う。

ただ、アパートの部屋の中では、PCやらベッドやら、冷蔵庫にはビールまで入っている、つまり誘惑にあふれている。


「そうだ、勉強とならば、図書館だ」

「少しは、真面目になるぞ」

「試験情報も入るかもしれない」


ということで、大学図書館へ。


幸い、空いている。

スンナリ座れた。


「それでは、さっそく」

英語のテキストを開く。

『この中の長文読解になるから、しっかり読んでおくように』

厳し目の講師が言っていた試験範囲を思い出した。

辞書を開いて、訳を始める。



少しして、隣に誰かが座った。

ふんわりとした雰囲気。

ほのかな柑橘系のフレグランス。


「え?」

と思って横を見ると、

「あ・・・春香先輩・・・」

いつも上品、優しくて憧れの春香さんが、にっこりと笑ってみている。


「すごいじゃない、晃君、お勉強にきたの?」

春香さんは、少し近づいてきた。


「え・・・あの・・・はい・・・」

やはり、シドロモドロだ。

話をするだけで、超恥ずかしい。

おそらく赤面まっさかりの顔になっている。


でも春香さんは、俺よりも英語のテキストを見ている。

「へえ、翻訳しているの?」

「長文読解の試験なの?」


聞いてくるものだから

「あ・・・はい・・・」

「必死です・・・間に合うかどうか」

まだまだ、シドロモドロ。


春香さんはニッコリ

「じゃあね、全部訳するまで、待っててあげる」

「その後、訳文見せてね」


「天にも昇る気持」としか言いようがない。

俺としては、本当に必死に翻訳した。

翻訳が終わって、恐る恐る差し出すと


「うーん・・・まだまだだなあ・・・」

案の定、赤鉛筆で真っ赤になった。


少しガッカリしていると

「大丈夫だよ、そんなに悪い点にはならない、日本語の言い回しが変なだけ」

慰めてくれた。

それでも、ショゲていたら、


「ねえ、言い過ぎたかな、夕飯、おごってあげる」

「何がいいかな」

なんと、憧れの春香さんから、お誘いを受けてしまった。


今度は、超ドキドキである。





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