第218話老母の化粧

珍しく老母が化粧をしていることに気がついた。


「ねえ、何かあったの?どこかに出かけるの?」

聞いてみるけれど、笑っているだけ。


「どこかに行くんだったら、車出すよ、足取りだって危ないんだから」

そこまで言って、老母はようやく口を開いた。


「あのね、今日は一年に一度の手紙を開く日なの」

老母は、少し恥ずかしげな顔。


「手紙ってだれから?」

老母の反応は、全く理解できない。


「しょうがないなあ・・・見せられるところだけだよ」

老母は、手紙を机から取り出した。

そして封筒の宛名と差出人のところだけを見せてくれた。



「え・・・母さん宛はわかるけど」

「これ・・・差出人は父さん?五十年前?」

それ以上は聞かなかった。

父さんは、二十年前に亡くなっている。

母さんが大切にしていた手紙は、きっと父から母への想いが書いてある。


「今日は父さんの好きな御寿司にしよう」

「父さんの写真の前で食べようよ」


老母は手にした手紙をキュッと握った。


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