第206話逢坂越えぬ権中納言(3)堤中納言物語

左右、それぞれの味方の殿上人が、思いを込めて取り出す根の雰囲気は、なかなか優劣など付けられないようではあるけれど、左方の中納言が取り出す根は、その長さといい、優美さといい、中納言自身が工夫を凝らしてあるのが、言いようもなく素晴らしい。


それでも根合わせを続けていくうちに、お互いの立場に配慮し引き分けの結末も予想されたけれど、左方の中納言が最後に出してきた根は、とにかく別格にして最上級の美しさである。

敵方の三位の中将でさえ言葉を失い、見つめるしかない様子である。

そんなことで、「左方の勝利でしょうか」などと、左方の面々は得意満面である。



さて、根合わせのお遊びも終わり、その次に歌合せのお遊びにとなりました。

左方の朗読係は左中弁、右方は四位の少将です。

歌を詠み上げている間など、左方の女房の小宰相の君は、まるで気が気でない、落ち着かない様子。

右方の人々も朗読係に不安な様子。

「四位の少将様、どうしたのですか?気後れなどなさらぬように」

などと声をかけます。

また、中納言が左方を応援しているので、それも、いまいましいのか、不安なのです。


左方

「中宮様のご寿命が長くお栄えになります証にと、菖蒲草の千尋にも余る根を引き抜いてまいりました」


右方

「この菖蒲草は普通のものとは、誰も見ないでしょう、何しろ、かの有名な安積の沼に生えていたものなのです」

とおっしゃられ、

右方の朗読係四位の少将は更に「決して劣りはしません」として、

「これらの菖蒲草に優劣などつけられません。同じ淀野に生える根なのですから」

と言われます。



さて、その頃、帝のお耳に、この催しのことが入ったようです。

そして帝も興味を惹かれたのか、様子を知ろうと、そっとご覧になっております。

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