第199話侮蔑と真心(2)
ジャンはそれでも、通行の邪魔になると考え、激痛を覚えながらも道の脇に身体を移した。
しかし、怪我と心の痛みで立ち上がることができないジャンを助け起こそうという者はいない。
それはフィリッポとフィリッポの親に「仕事上の恩恵」を受けているものが、この街では大半であるから。
もし助け起こすところを見られようものなら、必ず告げ口をされる。
そして、一旦告げ口をされようものなら、その人間だけではない、その一家や親戚まで責めが及ぶ。
結局ジャンは、立ち上がれないまま、路上の脇に放置されたのである。
街から灯りが、ほぼ消えた時
「ギィ・・・」
ほぼ意識がないジャンの横に、一台の馬車が停まった。
中から、初老で大柄、修道着を着た男が降りてきた。
横たわるジャンの前にひざまずくと
「・・・なんということを・・・」
と、つぶやく。
修道着の男は、胸の前で十字を切り、ジャンの脈を見る。
そして、ジャンの手を見た。
修道着の男は、一旦、馬車に戻った。
おそらく、中にいる「誰か」と相談をしているらしい。
そして、数分でジャンのところに戻り、ゆっくりとジャンを抱え上げる。
「急がねば・・・」
顔中に傷と血痕が残るジャンの顔を見た後、修道着の男は、ジャンを抱えたまま馬車に乗り込んだ。
「そうですね、動かさないように」
馬車の中から、中年の女性の落ち着いた声が聞こえた。
その後、静かに馬車は動き出した。
そして、街の門を出ていく。
街は、何事もなかったような、静かな闇に包まれている。
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