第198話侮蔑と真心(1)

ジャンは街の中を歩いていて、突然、後ろから殴られた。

そして、その勢いで、道に倒れ込んでしまった。

衝撃で、口の中を切り、歯も折れているようだ。


「誰だ!いきなり!」

ジャンは、必死に起き上がろうとする。

しかし、起き上がろうとする脇腹に、思いっきりの「蹴り」が入る。


「うっせえな!」

「誰だじゃねんだよ!」

聞き覚えのあるフィリップの野卑な声。


「貧乏ったらしいお前なんかな!」

「地面に這いつくばっているのが、お似合いだってんだ!」

フィリップはますます声を大きくして、蹴り続ける。


ジャンは痛みのため、のたうち回るが、街を歩く人は誰も助けにこない。

それも仕方がない、フィリップの親は街でも大幹部。

フィリップとフィリップの親に睨まれたら、この街では生きていけないのだ。



「グェ!」

「ゴホ・・・」

切れた口の中から、血が路面にこぼれている。

脇腹の痛みもひどい・・・既に何本か折れたのか。


「いいか!ルチアはもらったぜ!」

「お前みたいな貧乏人には、似合わねえんだ!」


既に意識朦朧となっているが、フィリッポの後ろで、笑い転げるルチアの顔が見える。

昨日までは、「愛を誓いあっていたルチア」が、ジャンを蹴り続けるフィリッポに拍手まで送っている。


「ペッ!」

フィリッポの口から、自分の顔に「ツバ」がかかった。

悔しいけれど、立ち上がる体力もない。


おまけに

「これが、今の私の気持ちだよ!」

「この!貧乏人!甲斐性なし!」


「真面目誠実で腕が良い家具職人?ふっざけんじゃないよ!」

「アタシはね、喧嘩が強くて金のある男のほうがいいのさ!」

ルチアの尖った靴先が、脇腹を強くえぐった。


「グワッ!」

ジャンは、痛みで、再びのたうち回る。

そのジャンの顔を、ルチアはヒールの踵で踏みつける。


「貧乏人!貧乏人!貧乏人!」

頭蓋骨も折れるくらいの痛み。

とうとう、ジャンは意識を失ってしまった。


「貧乏人を痛めつけるほど、楽しいことはない」

再びフィリッポがジャンの顔を踏みつけると、ルチアは満面の笑顔。

「ああ、これで、やっと私にも幸せの神が微笑んだのさ」


フィリッポとルチアは、腕を組み、大笑いしながら、ジャンの前から姿を消していく。

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