第197話ミューズの神の思し召し(3)(完)

曇った顔をされても、尚子とは偶然、コンサートで「ご一緒」したに過ぎない。

少しためらっていると、尚子が真顔である。


「私にも、お礼をさせてください」

「そうしないと、気が済みません」


「え・・・そんな・・・気にしないで」と言ったけれど、尚子は真顔のまま。

「そうなると、少しお腹が減ったかな」

多少、無粋とは思ったけれど、いきなり「飲もう」というのも、おこがましいと思った。


尚子は、ようやく真顔から笑顔に変わった。

「明日は、土曜日ですよね」

「お仕事おやすみですから」


「え?その意味は?」

なかなか無粋な俺であるが、短時間で終わる「お食事だけ」ではないと理解した。

ようやく切り返した。

「少し、大人しめだけど、音楽が聞けて、お酒とお料理の美味しい店が近くにあるよ」



その後は結局、11時頃まで、尚子とお酒と料理、音楽談義になった。

「深夜で心配だから」で、尚子のアパートまで送ってから、タクシーで帰宅した。

結局、もらったチケット代くらいの「出費」となってしまった。

さすが「悪友」からもらったチケットだとは思ったけれど、俺も負けてはいない。


結局。尚子とは妙に気が合った。

話をしていて、疲れるということが何もない。

お互い、希少なクラシック音楽ファンという仲間意識も芽生えたし、失いたくない気持ちになった。

その後も、コンサートに一緒によく出かけるようになり、それ以外の付き合いも多くなり、とうとう婚約まで交わした。


まあ、これはミューズの神の思し召しに違いない。


                                   (完)

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