第196話ミューズの神の思し召し(2)

悪友からもらったチケットの席は、かなり前の方の値段も高い席。

尚子は、席に座るなり、大興奮である。

「こんな席のチケットなんて、買えませんよ!」


そう言うものだから、素直に白状する。

「ああ、これは悪友からもらったのさ、あいつが仕事で行けないっていうから」

素直に白状しても、尚子は笑顔のまま。

「いやーーー悪友じゃないです、その人と彼女に感謝です!」


「いや、ああ、そうか、あいつは彼女いたんだっけ」

そう言えばけっこう可愛い彼女の顔を思い出したりする。


「まあ、今日は本当にラッキーです!楽しみましょう!」

尚子は、ますますご機嫌である。


演奏会の演目は、全てブラームス。

大学祝典序曲、ヴァイオリン協奏曲、交響曲第一番。

ブラームスとしては、定番になる。

指揮もソリストも完璧、よどみ無く深淵にして鮮烈、温かみを併せ持つブラームスの世界を表現する。


「うん、たまには、いいな」

「響きも、深いし、リズムのキレもタメもいい」

「音楽そのものが歌になっている」

聴いていて、久々に感動した演奏会だった。


「それでは、良い演奏でした」

演奏全てが終わり、席を立つと、隣に座った尚子の顔も少し上気し、立ち上がった。


「ありがとうございました」

尚子も感動したらしく、お辞儀までされてしまった。


「いや、これはラッキーなので・・・」

それ以外に言うこともないけれど

「取りあえず駅まで一緒に」

尚子に声をかけた。


「・・・駅まで・・・?」

尚子の顔が、少し曇っている。

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