第184話ほどほどの懸想(3)堤中納言物語

いつのまにか時は過ぎ、新しい年を迎えました。

頭中将様にお使えしている同僚の若い男が、好き者なのです。

かといって、特に決めた相手もいないのですが、この小舎人童に

「おい、お前の通う所はどこなんだ、かなり可愛い女たちのいるところか」

と聞きますと

小舎人童は

「はい、それは八条宮邸なのです。知人がおりまして、若い女はそれほどはおりません、しかし女房の中将の君と侍従の君などは、大変お美しいと聞いておりますよ」

と答えます。

すると、その若い男は

「そうとわかったならば、お前の女を通じて、私の想いを伝えてはくれないか」

と手紙を渡すので、

小舎人童は

「どっちつかずの、ふらふらした恋ですねえ」

とだけ答えて、小舎人童の彼女に手紙を渡します。

小舎人童の彼女は

「まあ、本当にいい加減な恋の手引きなんかしないでよ、いけないことだよ」

とはいいながら、女房たちのいる所に持って上がり、

「このお手紙はさる某からのものです」

と見せるのです。


手紙の内容は、

「心の中でだけで思い乱れてしまう私です、青柳が風になびくように私の想いはあなたになびいています。その風が私の想いをほのめかしていることをお気づきではないですか?」

「『そんな想いを、あなたがお知りにならないとは、これほど辛いことはない』という歌の通りなのです」

とあります。


女房たちは

「まあ、これには無視をするのも。古風すぎますよね」

「今の時代は、最初のお手紙に返事をなさるのが、当たり前とか」

とお笑いになります。


その女房たちこそが、今風なのだろう。

「一筋に縒り合わせていない青柳の場合は、風が吹くたびに思い乱れるのでしょうね、つまり一筋に一人の女に思い寄らないあなたです、おそらく他の女性をみれば、また同じように思い乱れるのでしょうね」

と返事をする。


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