第183話ほどほどの懸想(2)堤中納言物語

それを聞いた小舎人童は

「もう!気に入らない!」

と言って、手に持っていた笏でお目当ての娘を軽く叩いたりします。


若い娘の方は

「そんな長い笏で叩くようなことをするから、ますます気に入らないの」

「急に共寝なんて言われて、はいわかりましたなんて、応えられると思う?」

などと返します。


実は、まだ二人とも子供ではあるけれど、互いに好きでたまらないらしい。

結局、この一件のあと、ますます二人の逢瀬は盛り上がったとか。



さて、その後、どういう事情かわからないけれど、若い娘は故式部卿宮の姫君にお仕えするようになりました。

姫君の父君は早くに亡くなられ、その時点で母君が尼となられたので、都でも場末で下京の寂しげな所で、使用人もろくに雇えず心細い暮らしとなりました。

まあ、そんな環境でも姫君は日ごとに美しさを増し育っていくのです。

しかし、故父君としては入内まで考えていたので、この状態ではどうにもなりません。


小舎人童は若い娘のところに、逢いに来るたびに頼る人もなく、活気もない寒々とした屋敷を見て、こんな話をします・


「できればね、私の主人の頭の中将様が、この姫宮と結ばれてくれないかなあ」

「頭の中将様は、まだ正妻がいないんだ」

「本当にそうなったら、どれほどうれしいかなあ」

「この下京は、やはり遠いのさ、なかなか来れなくてね」

「もし、私の主人と結ばれてくれれば、あなたの所にもいつでも来られて、安心するしねえ」


若い娘は、少し難しいような顔で答えます・

「でもねえ、姫宮は、もはや結婚などのお気持ちがないと、お聞きしていますよ」


小舎人童が

「おそらく、すごくきれいなお方なのでしょうね」

「御身分としては申し分ないけれど、御容貌が今ひとつで結ばれなくて残念な例も聞くことがあるからね」

と言うと


若い娘は

「もう、呆れるようなことを言わないで」

「そんなことないよ、姫君にお会いした人全てが、『どんなに腹が立っている時でも、姫君にお会いすると、心が必ず慰められる』と言うんだから」

と胸を張って答えます。


そうなると、小舎人童としては「渡りに船」「一石二鳥」です。

自分もお供で恋人のところに来ることが出来るし、主人の頭の中将様にもお手柄と褒められるだろうし、ついついニンマリと計画を練るのです。


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