第178話悪夢(5)

予想通りBMで来ていたのは、洋子だった。

祥子と由美と一緒に2階の店に入ると、満面の笑みを浮かべて、両腕を広げた。


「お久しぶり、もう何年ぶりかなあ・・・」

ほとんど体当たり気味に、ハグをして来た。

ちょっと腰痛のため、ズキっとしてしまう。


洋子は、少し涙ぐんでいる。

もともと、涙もろいタイプである。

高校では、1年先輩にあたる。

大学では、洋子が1年浪人したため、同じ学年となった。

もちろん大学は異なるが、交響楽団にそれぞれ属していたため、顔を合わせる機会も多かった。


「さあさあ・・・そこで二人で、お相撲してないで、席について」由美


「由美さんって、色気も何もあったもんじゃない」洋子


「先輩の言うことは聞きなさい」

祥子も、キッパリと切り捨てる。


席につくと、様々な料理が運ばれてくる。


ワインは当然先程の店から持たされたブルゴーニュの赤。

「ノルウェーサーモンとポンカルのタルタルミント風味」

「冬の鮮魚と鯛のお刺身風マリネ 合鴨のスモークバルサミコ風味 いろいろ有機野菜のオリーブソース」

「トコブシとエリンギ茸のフリット」

「広島産冬のカキと下仁田葱・青森にんにくのオーリオペペロンチーノ」

「鰆のポワレ 2色の野菜ピューレ添え」

「柚子のシャーベット」

「牛ロースステーキ わさび醤油」

・・・・・・・・


「すごいねえ・・・美味しいなんてもんじゃない!」洋子


「うん、私のレッスンの賜物」由美


「まあ、それはともかく・・・腕をあげたね」洋子


確かに、かなり美味しいと感じた。

食事中は、「例の写真」の話は出なかった。

うまい具合に忘れたのかとも思った。

しかし、それにしては、どうして、こんな美味しい料理に誘われたのかが、よくわからない。

思い切って聞いてみることにした。


「ところで、突然、こうした形で、おごちそうになったんですが・・・」


「うん、訳を知りたい?」祥子


「はい」


「・・まあ・・・いろいろあるけれど・・要するに、貴方に逢いたくなっちゃったの・・それぞれの理由でね」由美


「それぞれの理由?」


「うん、私はあの店主から、最近の貴方の様子を聞いててね・・・かなり、ストレスのある仕事をしてるから、なぐさめてやってくれって言われてたの」祥子


「私は、全然違うんだけど・・・今度、音楽雑誌に評論を書くんだけど、どうしても貴方の意見を聞きたくて」洋子


「私は・・・たまたま、部屋を整理してたら、あの時の写真が出てきて・・・」

「それを娘が見て、貴方にとんでもないほど興味を持ったって話をこの二人にしたの」由美


「うん、それ私たちも見たくってさ・・・」祥子


「だってさ・・まあ・・あれはまったく信じられないほどだったって記憶がまだ残っててさ・・・」洋子


「まさか・・・その写真、今あるんですか?」


「パソコンって便利よねえ・・取り込んで拡大して・・」由美


頭がクラクラするのは、ワインの酔いのためではなかった。

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