第168話フェリックス(6)

ガクガクと震えるしかないフェリックスに、アンリが声をかけてきた。

「フェリックス・・・」

アンリは手招きをしている。

「はい・・・アンリ様・・・」

前領主様にして、自分の祖父だと言う。

そんなことは、全く知らなかった。

しかし、身分としては天と地程の差がある、断ることも出来ない。

フェリックスは、恐る恐るではあるけれど、アンリの前に立つ。


「すまなかったなあ・・・フェリックスや・・・」

アンリはフェリックスの手を直に握ってきた。

それにしても、「すまない」などと、前領主に謝られるほどの理由が、まるでわからない。

しがない時計修理職人のフェリックスとしては、首を傾げることになる。


「こうなっては仕方がない、私から説明しよう」

ようやく、現領主のフランソワが口を開いた。

「フェリックス、お前の実の父は、私の弟なんだ」

「名前はセバスチャン、フィレンツェ郊外の修道院にいたのだが・・・」

フランソワの口が少し重くなった。

フェリックスとしては聞くしかない。

「つい、先週のことだ、戦乱に巻き込まれて、命を落とした」

「こちらとしてはだ、このフランソワの子がないこともあって」

「次の領主にと考えていたのだが・・・」


「え・・・まるで意味がわからない」

フェリックスの足が、ますます震える。

それでも、母については聞かないといけない。

「あの・・・もしや・・・母は・・・」


フランソワは、少しアンリの顔を見た後、フェリックスに答えた。

「ああ、実の母については、フェリックスが生まれた直後だ、実は亡くなっている」

「産後の・・・ことでな」

「だから、フェリックスは修道院に預けていた、わが弟セバスチャンと、ここの御城の給仕娘のライラの子だ」

「時計修理店の夫婦は、お前を匿う、育てることを命ぜられただけだ」

フランソワの声が重い。


「そんな・・・ありえない」

今まで実の父と母と思っていた二人が、赤の他人。

それにしても、何故・・・

「身勝手過ぎる」

フェリックは、怒りさえこみ上げてきた。


「だから・・・許されないことだった」

「お前の父、セバスチャンは給仕娘と・・・など」

「領主の家系としてはだ」

アンリは、苦しげな表情になる。


「私としても、父の怒りの中、城中でお前を育てることは出来なかった」

「だから、信頼のおける時計修理の夫婦にお前の養育を任せ」

「陰ながら、援助を・・・な・・・」

フランソワの顔も、苦悩に満ちている。


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