第167話フェリックス(5)

「え?おじさん?」

フェリックスは、その人物を見るなり、腰を抜かすほど驚いてしまった。

何しろ、会ったのは子供の頃だから、二十年も前。

その後、両親が相次いで死んだのは、六年前、フェリックスが二十歳の頃だ。


父親が、死の病の床で「何かあったら、フランソワおじさんを頼りなさい」と言ったことは覚えている。

しかし、その「フランソワおじさん」がどこに住み、何をしているかなどは、言わなかった。


「それじゃあ、頼りようがないじゃないか」フランソワは、病で苦しそうな父に文句を言った。

「ああ、それだけは言えないんだ、いつかはわかることだ」父親は、それ以上決して言わなかった。

その「フランソワおじさん」が、まさか、こんな立派な御城の一番奥の豪華な部屋に立っているのである。

フェリックスが腰を抜かすほど、驚くのも無理はない。


「フェリックス」

その「フランソワおじさん」が、フェリックスを手招きした。

張りのある、昔聞いたことがある声だ。


「はい・・・」

フェリックスは、呼ばれれば、行くしかない。


「早く!」

そのうえ、急かされた。


「はい」

急ぐしかないのか・・・それでなくても広い部屋だ。

しかし、フランソワおじさんの他にも、もう一人いるようだ。

かなりな、老人である。

しかし、立派な服を着ている。

今まではフランソワおじさんの突然の登場に、気が動転していて気づかなかった。


「おお・・・フェリックスか・・・」

その、もう一人の人物から、しわがれた声がかかった。


「はい、フェリックスにございます」

フェリックスは、ようやくフランソワおじさんと、その老人の前に着いた。

そして、フェリックスは考えた。

この老人も、御城のこんな奥にいるからには、かなり偉い人に違いない。

そういうことには無頓着なフェリックスとて、膝を折り挨拶をする。


「ああ、待ったぞ、フェリックス」

「苦労をかけたな」

驚くことに、その老人がフェリックスに再び声をかけてきた。


「え?名前はともかく、苦労?」

フェリックスは、足がすくんでしまった。

全く意味がわからない。


そんなフェリックスに、フランソワが声をかけた。

「フェリックス、この御方は、先代の領主、アンリ様だ」

「そして、お前の、祖父様だ」


「え・・・それは・・・」

フェリックスは、ガクガクと震えている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る