第166話フェリックス(4)
フェリックスは、結局、領主からの「お召し」を断ることができなかった。
ロベールの用意した馬車に一緒に乗り込み、御城に出向いた。
また、全ての修理時計と修理道具は別の馬車に乗せ、一緒に出発。
その馬車には、ロベールと一緒に店に入ってきた二人の軍服姿の男が乗り込んでいる。
「・・・いったい・・・何だってんですか・・・」
相当気に入らないものの、それでも、一つだけは条件をつけた。
「修理後の時計は、店で渡したいのですが」
「修理を依頼した客にも、御城からの配達では、恐れ多すぎるし」
しかし、その条件は「全て、御領主フランソワ様がお決めになること、ただ、善処はする」というロベールの言葉で、フェリックスが満足できる答えは得られなかった。
領主フランソワの城は、街を見下ろす高台にある。
フェリックスの一行は、とうとう、城の門に到着した。
警護の兵だろうか、ロベールの顔を見ると、キビキビと動き、その頑丈な鉄の扉を開ける。
「着いちまったか・・・」
今さら、どうなるものではない。
修理時計と修理道具は荷台に乗せられ、フェリックスはそれとともに、ロベールの案内で、御城の中を歩く。
「全く、別の世界だ、こんな石造りの空間は俺には似合わない」
「話だけ聞いて帰るわけにはいかないのか」
「ああ・・・息が詰まる」
「それに、どうだ・・・この役人連中は・・・」
軍人ロベール以上の立派な衣裳に身を包み、フェリックスをじっと見つめてくる。
「しかし・・・何だ?涙なんぞ流して見る女も・・・あれ?男まで?」
フェリックスにとって意外だったのは、城中の奥深くに進むに連れ、フェリックスを見てくる男や女の役人だろうか、彼らの表情に変化があること、それもフェリックスを見て、親愛の情あるいは涙を流しているものが増えてきているのである。
「さて・・・フェリックス様」
ロベールは、おそらく城中のまた奥深い、豪華な扉の前で、その歩みを止めた。
「・・・フェリックス様?どうして?俺はしがない時計職人だぞ?」
フェリックスにとって、またしても意外な事態が発生した。
どうして、「様付け?」と思ったけれど、そのロベール自身が泣いてしまっている。
「フランソワ様が、お待ちです」
ロベールは、フェリックスの問いかけには応えなかった。
ロベールが、その豪華な扉をノックすると、音もなくスムーズに扉は開かれた。
「何?・・・え?・・・・」
フェリックスの視線の先に、思いがけない人物が立っている。
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