第165話フェリックス(3)

あまりの突然のことにフェリックスは震え上がったものの、それでも一抹の冷静さは残していた。


「はい、恐れ多き、御領主フランソワ様の御希望とあれば、参ることにいたしましょう、ただ、当方にも事情がございます」

「残念ながら、すぐにというわけには無理でございます」

フェリックスは、領主フランソワの所に出向くことは、了承した。

しかし、すぐには無理と言う。

これには、フランソワからの使者ロベールが怪訝な顔をする。


フェリックスは、ロベールに対して、理由を説明した。

「ロベール様、ご覧になってください」

「今、ここにある時計修理の山を」

「地域の住民で修理を、首を長くして、待ち焦がれている人がこれだけ多いということなのです」

「私も地域に生きる職人なのです、この全ての修理が終わるまでは、とてもとても・・・」

「待ち焦がれている人々を、裏切るわけにはいかないのです」

「ですから、今、しばらくのご猶予をと、フランソワ様にお伝え出来ませんでしょうか」

フェリックスは、今抱えている時計の修理完了までの猶予を、願ったのである。


しかし、ロベールは、フェリックスの願いには、何も表情を変えない。

落ち着いた表情で、フェリックスに言葉を返した。


「フェリックス、いや・・・今は、そう呼ばせていただくが・・・」

「その心配は何もない」

「その修理の時計の山も」

「修理道具も、そっくり、御城に運ばせてもらう」

「御城の中で、修理作業を行ってもらってもかまわない」

「修理が終わった時計を届けるのも、当方で行う」

「それもフランソワ様のご意向なのです」


驚くしかないフェリックスにロベールが、もう一言。

本当に深く頭を下げ

「とにかく、お急ぎしていただかないと・・・」


そのロベールにならい、他の軍服姿の男二人も、フェリックスに深々と頭を下げている。

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