第164話フェリックス(2)

午前十時頃、突然、フェリックスの店に厳しい軍服にその身を包んだ男が、三人入ってきた。


「はい、いらっしゃいませ」

無愛想なフェリックスとて、挨拶ぐらいはする。

しかし、山ほど積まれた故障時計の山は、フェリックスにそれ以上の、客対応を許さない。

のんきに世間話などしている暇はないし、一分一秒とて、惜しいのが本音である。


「君がフェリックスか」

厳しい軍服を着た三人男の中でも、一番の年輩が、声をかけてきた。


「はい、時計職人のフェリックスにございます」

「何か、御用でしょうか」

まさか、軍服姿の男三人と、トラブルになることは避けたい。

フェリックスとしても、慎重な態度を取る。


「ああ、頼みがあるから来たんだ」

「私は、ロベールという」

「それから、この二人は私の部下」

「三人とも、御領主様に仕えている」

ロベールという軍服姿の中でも年輩の男は、一応、簡単な自己紹介をしてきた。

しかし、それでは、御用の内容がわからない。


フェリックスは、仕方がなく、もう一度聞き直すことになる。

「はい、それで、もう一度お聞きしますが、その御用とは」

フェリックスの口調が、いささかキツくなった。


「ああ、言いづらいことでもあるのでな」

ロベールは一旦、口を濁した。

しかし、おそらくロベールに課せられた御領主の命令なのだろう。

ロベールは口調を重くし、フェリックスに告知した。


「時計職人のフェリックス、御領主フランソワ様のご希望である」

「即座に、フワンソワ様の元へ、参られよ」

「我々が、案内の御用を仰せつかった」

ロベールの口調も顔も重い。


フェリックスはあまりの突然のことに、震え上がっている。

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