第163話フェリックス(1)

腕の良い時計職人のフェリックスは、日々、酔いつぶれてしまう。

酒は好き。

しかし、すぐに酔いつぶれる。

だから安上がりだと思うけれど、そうではない。

そんなフェリックスには、不思議と女を虜にする魅力があるようだ。

虜にするというよりは、心配になってしまうのだろうか。


朝起きると、フェリックスの隣には、必ず裸の女がいる。

それも、同じ女の場合もあるし、別の見知らぬ女の場合もある。

フェリックス自身は、「何をした」という記憶はない。

しかし、元来、お人好しでもあるから、必ずいくらかのお金を女に渡す。

お金を受け取り、うれしいような顔をする女もいるし、寂しげな顔をする女もいる。

フェリックス自身は、その表情の理由はよくわからない。

何しろ、寝ていて起きたら、そういう状態なだけ。

考えても仕方がないことだ、その中で確かなことは、前日にかせいだ金の半分が見知らぬ女への金となることだけ。


「特定の女など、面倒なだけだ」

「夜、寒くないだけでも、いい」

「親も兄弟もない」

「寝ている間に、天国でも構わない」

「そのほうが、どれほど楽なのか」


フェリックスの昼間は、山のようにある時計修理の仕事を懸命にこなすことだけに費やされる。

とにかく人口の増えてきたこの街で、確実に時計を修理できるフェリックスはかなり重宝されている。

だから、金とか生活には、ほぼ困らない。

そんな生活が何年か続いてきた。

そして、これからも変わらないだろうと思っていた。


・・・ある日の思いがけない客が来るまでは・・・


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