第155話なびかない男(2)

明日香は、本気で翼にアタックを始めた。

珈琲、紅茶の差し出しはもちろん、お菓子も時折。

とにかく、頻繁に翼に声をかける。

香水も、翼にあわせて、爽やか風のに変えたりもした。

しかし、明日香が自分の席に戻ると、出るのはため息ばかりになる。


「で、どうだったの?」

「反応は?明日香だからさ」

「どうして、ため息なの?」

同僚女子や、同僚男子まで、明日香の翼アタックを注目して声をかけてくるが、出るのはため息ばかりである。


「はい、ありがとうございますとかさ」

「ええ、大丈夫ですとか」

「香水は、気がついているのかどうか、わからない」

明日香は、焦りだした。


「明日香でも、難しいのか、だったら私なんか無理って・・・」

「それとも、業務時間中は難しいのかな」

「翼君、仕事に熱中するタイプだからね」

「あまり頻繁だと邪魔かも」

「しつこいと逆効果かなあ」

「私は、降りたわけじゃないよ、今は明日香への反応を見ているだけ」


同僚女子が特に、イロイロと言ってくるが、明日香に助言するものもあり、「スキアラバ」と狙うものもある。


そこで、明日香は次の作戦を考えた。

「・・・でも、確かに業務時間中は、何かとよろしくない」

「新入社員の時点で、息抜きを覚えさせてはいけない」

「作戦としては、アフター5の拉致だ」

「定時で、爽やかに姿を消す翼をつなぎとめるには・・・」

ただ、作戦というほどのものではない。

定番のお食事デートのお誘いである。


「どうして私から?」

「今までは、全部アイツからのお誘いだったのに」

少々、気に入らないけれど、「翼を落とす」には、行動あるのみだ。


「人生の先輩の意地もある」

「無理やりでもいい、拉致する」

「面白かったら監禁する」

明日香は、少々危険な覚悟で、翼をお食事デートに誘うことにした。


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