第154話なびかない男(1)

4月新年度になり、新入社員が入ってきた。

その新入社員の中に、ひときわ注目を浴びるイケメン男がいた。

名前は、翼、とにかく、物腰が柔らかいし、頭も仕事も新人とは思えないほど切れる。

事務をやらせても、営業をやらせても、そつなくこなしてくる。

なお、確かな噂では、実家もけっこうな名家、財産家らしい。


そんな翼なので、女子先輩社員と同期女社員たちからのアタックは、日々すごいものがある。


朝の挨拶と、すりより。

珈琲、紅茶サービス。

お食事やコンサートへのお誘い。

つききりで、仕事を教える。

・・・・・


そんなアタックが、入れ替わり立ち替わり、周囲の男性社員がうらやむ、あるいは、やっかむほどであるが、翼が誰に「落ちる」ということは、全く無いようだ。

とにかく、いつもの通り、物腰柔らかくテキパキと仕事をして、定時に帰っていく。



そんな状態がしばらく続いた。

特に女子社員の中では、困惑が広がっている。

「ねえ、私じゃだめなのかな」

「私も全然、反応なし」

「愛想はいいんだけど、お誘いには全く無関心」

「彼女でもいるのかなあ」

「うーん・・・聞き出したい」

「あ、聞いたんだけど、さあって言ってニコッと笑っていただけ」

「いるのかなあ・・・どっちかなあ・・・」

・・・・・


なかなか、困惑は深まるばかりである。


さて、そんな女子社員の中で、自他共に認める美女の明日香がいた。

明日香自身は、特定の彼氏がいたので、翼に対しては、並の興味くらいしか持っていなかった。

「だってさ、私は25だし、翼君は22でしょ?」

「確かに可愛いけれど、年の差もある」

「私には、今、素敵な人もいるしね」

「まあ、今の彼に幻滅するようなことがあれば、アタックするかな」

「まあ、私がアタックすれば、落ちない男なんていないしさ」

何しろ、超余裕で、「翼騒動」をながめていたのである。


しかし、その明日香にとって、「とんでもない事態」が発生した。

明日香の彼氏の「二股」が確定。

そして、あろうことか、明日香が「ふられてしまった」のである。



「うーーーーーー!」

「こうなったら、翼を落としてやる!」

「彼女がいても、奪い取るだけ!」

「絶対、有無なんか言わせない!」

明日香は、フラれた直後から、翼への「猛アタック」を開始した。




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