第151話加奈子(3)(完)

そんな、ほとんど話などしたことがない加奈子だし、その上、加奈子の母が感激したからといって、「はい、わかりました」と、ノコノコ出かけるのも、飛躍しすぎだ。


「ああ、そこまではいいよ」

「当たり前のことだし、そこまで感激されるほどのことじゃない」

「お気持ちだけで」

最後の言葉は、両親の受け売りだ。

やんわりと断る時に、よく使っている。


「そう・・・ちょっと困るな」

お断りをいれたら、加奈子は困ったという。


「うん、気にするな」

「俺に悪気はない」

事実、そうだから。


加奈子は、うつむいて何かを考えている。

そして、午前の授業中は、ずっとうつむいていた。


昼になった。

加奈子は、その顔をあげた。

「ねえ、翔君」

すごくマジな顔。


「え?何?」

なんだかさっぱりわからない。


「せめて・・・お弁当は、一緒に食べて」

加奈子の顔はマジなうえに赤い。


「あ・・・ああ・・」

確かに加奈子が作ってくれたお弁当だ。

母親のお招きも断ってしまった。

これ以上のお断りは、よくないと思った。

それに、加奈子が作った弁当を受け取る姿を、他の奴らも見ている。

そうなると、一緒に食べないと、それも変だと思った。



「じゃあ、開けてみて」

加奈子の声が震えた。


「うん、ありがとう」


「・・・わっ!」

開けてみて、腰を抜かした。

白いごはんに、ピンクの相合傘・・・桜でんぶ?

しかも、「かける」と「かなこ」の字までピンク・・・

俺の目まで、ピンクになったようだ。




その日も夕方から雨だった。

加奈子と一緒に帰ることにした。


「私が相合傘のところ、書いたの」

「意味わかる?」

加奈子の声が震えている。


「うん・・・なんか、うれしいけど、・・・なんて答えていいの?」

「こういうの慣れていない」

とにかく昼飯から恥ずかしくて仕方がない。

加奈子って、高飛車だと思いこんでいたけれど、全然、そうじゃないから、よくわからないけれど、恥ずかしくて仕方がない。


「そうだね、全然慣れていないね」加奈子


「俺は、そういうのわからないんだって、無粋なのが取り柄だって・・・」


「もう、せっかく気持ちを書いたのに・・・」

「あんなことをしてくれた人なかったし・・・うれしくて」

「それがわからないなんて・・・もう・・・教育したくなってきたぞ」

加奈子は手をキュッと握ってきた。



いつのまにか、加奈子とだけは、話ができるようになった。


それが続き、今では、学園「公認カップル」になってしまった。




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