第150話加奈子(2)

「お礼なんて、メールのありがとうだけで十分だ」

そう思うけれど、それ以上考えるのは面倒だ。

そういう面倒なことがあるから、どうも女は苦手だ。

俺は、そこで考えることをやめた。

テキトーに勉強して、夜の11時には寝てしまった。


それでも、朝になり、学校には行かなければならない。

口うるさい母と妹が、制服の洗濯とアイロンが面倒だったとか何とか言ってきたけれど、聞いているふりして謝って電車に乗る。

ただ、文句を言われすぎたこともあり、加奈子のお礼とかは、すっかり忘れてしまった。


そんな、ボヤッとした状態で、いつもの教室に入ると、加奈子が立って俺を見ている。

「あ、そうか、お礼とか何とか言っていたなあ」

「ちょっと面倒」

なんて思いながら、自分の席に。

そして、すぐ「その面倒」が声をかけてきた。


「翔君、本当に昨日はありがとう」

「それで、これ・・・お礼・・・」

「私が作ったので、味はわからないけれど」

加奈子は、顔が赤い。

そして、籐のランチボックスを差し出してきた。


「え?何?」

「いいよ、お礼なんて、当たり前だし」

お弁当を、作ってくれたらしい。

いつも、学校の売店でおにぎりしか買ったことがないのに、それを見ていたのかと思う。


しかし、そうは言っても、男どもも女どもも、みんな注目して見ている。

加奈子は赤い顔しているし、恥をかかせたりして泣かれても困ると思った。


「うん、じゃあ、遠慮なく」

「でも、今回だけにしてくれよ」

あらぬ噂になりそうだし、とにかく、俺は女には無粋だ。

全くもって、そういう自信のカケラ一つもない。


ただ、ランチボックスを受け取っても、加奈子は俺を見ている。

「あの・・・まだ、何か?」

聞いてみると


「あのね、母がすごく感激して、翔君のこと・・・」

「一度、連れてきてって言っているの」

加奈子の顔は、ますます赤い。

そして、困ったような顔をしている。


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