第149話加奈子(1)

俺の名前は、かける

高校の新学期というか学年も2年に進級し、席替になった。

偶然だったけれど、隣に座るようになったのは、クラスでも、いや校内でも、美人で可愛いとホマレの高い、加奈子。

当然、他の男どもからうらやましがられた。

「翔って、超ラッキーだ!」

「お前ばかりずるい」

「いいなあ・・・」

いろいろ、言われたけれど、俺は加奈子には何の興味もない。

どちらかといえば、他人に高飛車なものの言い方をする。

美人で成績もトップクラスにいることを、鼻にかけているのが、そもそも気に入らない。

だから、隣に座っていても、俺からは何の話もしない。

加奈子から話しかけられても、「うん」とか「違う」とか、その程度しか言わない。

休み時間になっても、すぐに席を立ち、男友達の輪に入る。

そして授業開始直前に戻る。

もちろん、加奈子などは見もしない。

そして、次第に加奈子からも、何も話しかけてこなくなった。

ただ、それは俺にとってもラッキーだった。

下手に加奈子と話をしたりすると、それを見ている男どもがいる。

後々、根掘り葉掘り聞かれるのは、本当に面倒だ。


そんな日々が、ほぼ一か月にもなった。

相変わらず、俺も加奈子も、一日中隣に座っていても、一言も話をしない。

次第に、男どもも、女どもも、俺と加奈子のそんな様子が当たり前と思ったのか、何も言わなくなった。

俺にとっては、それが本当にラッキーで心休まることだったのであるが・・・


全ての授業を終えて、帰ろうとすると、バケツをひっくり返したような大雨と強風である。

「おいおい・・・置き傘があって良かった」

その置き傘をさして、外に出ると、加奈子が途方にくれたように立っている。

その理由もすぐにわかった。

大雨と強風で、加奈子のビニール傘はメチャクチャに壊れている。


「うーーー・・・」

と思ったけれど、俺も男だ。

美女で隣の席に座る同級生がずぶ濡れで歩くのは、シノビナイと思った。


「おい!これ使えよ、この傘は強いから」

そのまま、渡してしまった。

何しろ和傘風16本の高強度傘、と言ってもDIYで買った700円だ、こんなものが人様の役に立つのなら、こいつも本望だろうと思った。


「え?翔君は?」

加奈子が聞いてきたけれど、返事なんかしない。


「相合傘なんかできるか!恥ずかしい!」

相当豪雨で暴風だったけど、全速力で駅までダッシュ。

結局、ずぶ濡れ。

車内では変な顔で見られ、家に帰れば口うるさい母と妹から、特大の説教。


「あーーーやかましい」と思って、風呂にはゆっくりと入った。

何しろ、少々寒気もあったから。


それでも、温まって部屋に戻ると、スマホに着信とメール。

どうやらクラスの連絡網で調べたらしい。


加奈子だった。


「ありがとう」

「翔君、大丈夫だった?」

「風邪ひいてない?」


「私のこと、嫌っていなかったんだ」

「それが本当にうれしい」

「明日お礼したいから」


返信は、本当に困った。

何しろ、そういう返信はしたことがない。


書きようがないから


「うん」


やはり、俺は女への返信は苦手だ。

加奈子がどうのこうのの問題ではないと思った。












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