第152話失恋と母
久しぶりに帰省した。
都内に住んでいると、刺激も多いし、楽しい。
「それでも」と思った。
何しろ、我が母親は心配性だ。
たまには顔を見せないと、延々と電話攻撃が来る。
ただ帰ったからといって、大した話はない。
田舎は田舎、相変わらず穏やかで何も刺激がない。
駅に降りた時点で、ちょっと幻滅。
泊まるのは一晩と決めた。
母親には、せいぜいコビて、小遣いでもせしめればいいやと、即決した。
そんなことで、家に入ると母親は大騒ぎ。
アパート暮らし、コンビニ食生活では考えられない、「俺の大好物特集」だ。
こんなんじゃ、食べすぎてお腹壊すと思ったけれど。「お小遣いせしめ作戦」もある。
とにかく、ご機嫌を取らなければならない。
その食事の最中も、我が母親はしゃべりっぱなし。
他愛もないけれど、本当にいろんなことを話す。
ただ、ちょっと引っかかることが、突然飛び出してきた。
「ねえ、中学生の頃にさ、家の前で、朝ね、あなたとお話して歩いた、きれいなお姉さんがいたでしょ?」
「・・・げ・・・そんなとこまで見てたんかい・・・」と思うけれど、そのお姉さんは俺の「憧れお姉さん」だ。
上品で美人、やさしい、朝話ができるだけで、幸せ気分で一日を過ごすことができた。
その、お姉さんのことに違いがない。
これは、黙って聞くしかない。
「あのお姉さんね、今度結婚するみたい、一流商社のサラリーマンで年収もすごいんだろうねえ、海外に行くみたい」
田舎の噂は、なんて早いんだろうと思う。
しかし、それ以上に「超ガッカリ」だ。
それは、就職もしっかり決まっていない、しがない大学二年生。
相手が「一流商社、海外勤務」ってなれば、とても太刀打ちできない。
それに、憧れて話をしたぐらいで、お姉さんだって、きっと何も俺の憧れなんて感じちゃいなかった。
「ねえ、顔が沈んだよ」
「あらま、ガッカリ?失恋したの?」
「あはは!面白い!無理だって!」
「高望みしすぎって!」
笑うことないのに。
こういう無神経な母親だから、帰りたくなくなるんだ。
でも、結局、その日の夜は眠れなかった。
すごく寂しかったから。
翌朝
「じゃあ、失恋したから帰る」
小遣いだけ、せしめて都内に帰った。
電車の中で、小遣いが入った封筒を開けた。
一枚のメモが入っていた。
「このお金は、可愛い女の子とのデートのためにだけ使うこと」
「証拠写真をラインで送ること」
・・・それじゃ、使えない・・・
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