第145話雨の兼六園(5)

朝になった。

窓の外を見ると路面が濡れている。

「雨か」

やはり天気予報は当たった。

「迎えに来ると言ったけれど」

昨晩のことを思いだす。

何気なく入ってしまった小料理屋、金沢の美味しいお酒と料理、そして何より女将の圭子である。

「酔った勢いだろう」

お迎えに来るとか、もう一泊だとか、信じてはいけないと思った。

何しろ、ホテルまで送ってもらったことまで考えると、いかにも話ができすぎている。


「チェックアウトは、もう一寝入りしてからにしよう」

「雨降りだから、兼六園は中止、なるべく早く都内に」

朝食券がテーブルの上に置いてあるけれど、食欲もない。

ベッドに再び横になり、もう一寝入り。


再び目が覚めたのは、午前9時。

部屋のドアがノックされたためである。


「はい、何か」

眠気でふらつきながら、ドアの前まで行くと


「おはようございます、圭子です」

明るい声が聞こえてきた。

耳を疑った。

まさか・・・である。


「開けるしかないかな」

どうして部屋番号がわかったのか。

首を傾げながら、ドアを開けた。


「ありがとう、開けてくれて」

圭子は、弾けるような笑顔で入って来た。

「どうして、この部屋がわかったの?」

聞いてみると


「あはは、昨日お話している時に、晃さん、ホテルの鍵をいじっていたから、わかりました」

圭子は笑っている。

そういえば、そんなことをしたような記憶があるが、部屋番号まで見られていたとは気づかなかった。


「さて、お約束の時間ですよ、兼六園の」

少しキョトンとする俺を見て、圭子は約束を持ち出して来た。


「え?雨だよ」

まさかと思った。


「大丈夫ですって、これくらいなら、雨の兼六園も風情があるんです」

「私にお任せください」

圭子は、少しいたずらっぽい顔になり、すぐに表情を変えた。


「・・・それとも、ここで、二人濡れます?」

圭子は、いきなり、ものすごいビーンボールを投げてきた。

それも、真顔である。









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