第143話雨の兼六園(3)

何も考えず入った見知らぬ金沢の小料理屋で、見知らぬ女将と酒を酌み交わすことになった。


「不思議です」


「何が不思議なんです?」女将


「今、女将とこうしていること」


「女将じゃなくて・・・今は二人だけなので・・・出来れば・・・圭子と」

女将は、名前で呼んで欲しいようだ。


「圭子さんと?」


「違います、圭子でいいんです」圭子


「私たち、初対面ですが・・・僕は晃といいます」


「初対面も何も・・・男と女の出逢いは、理屈じゃないんです、晃さん」

圭子は、本当にうれしそうに笑う。


「そうだね、本当にそう思う」

ここは、圭子の笑顔に任せようと思った。


その後は、様々な旅の話や、食べ物の話をして、二人で酒を酌み交わした。

ただ、男女の話もしたけれど、自らの具体的な話はしなかった。


それでも、夜の11時になった。


「そろそろ、ホテルに戻ります、ありがとうございました、楽しかった」

名残は惜しいけれど、旅行客、通りすがりの男に過ぎない。

少し頭を下げて、立ち上がった。


圭子は、涙ぐんでいる。

袖をつかんできた。

「あの・・・ホテルまで送らせて・・・」

「一人で、帰らせたくない」


後ろから抱きしめてきた。

「一人寝も・・・寂しい」

圭子の腕の力は、すごく強い。






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