第141話雨の兼六園(1)

一人旅が好き。

今回は福井、金沢方面にした。

福井では、永平寺を見学。

なかなか広い伽藍、手入れもキッチリ行き届き、さすがは修行場である。

道元禅師に想いを寄せながら、東尋坊に足を延ばした。


荒れ狂う日本海ならば、迫力もあるけれど、あいにくというか幸運なことに穏やかな海が広がっている。

道の両側に並ぶ海産物屋で酒のつまみなどを買う。

ただ、今日の泊まりは金沢。

どうせ、どこかの小料理屋で飲むのに、わざわざ酒のつまみを買うなんて、我ながら何も考えていない。

そんなことを思いながら、車を走らせ、ようやく金沢市街のホテルに着く。


「まあ、ここに来たのなら、和食かな」

「渋めの、本当に小さな小料理屋で十分」

ホテルの豪華絢爛の料理なんて、食べきれない。

出来れば、小料理屋でもいい、自分のためだけの料理を食べたいと思った。


夜も7時を過ぎ、繁華街をぶらつく。

まあ、賑やかでネオンも光っているけれど、そういう騒がしいところは好きではない。

とにかく、少し古びた小さな小料理屋を探し、本当に小さな店を見つけた。


「ここにするか・・・」

「どうせ、女将も、年季が入った・・・」

なんて思って、暖簾をくぐる。


「いらっしゃいませ」

・・・なかなか、きれいな女将だ。

しかも、年からすれば、俺と同じか、少し若い。


「何を食べていいのやら・・・金沢は初めてなので」

「お酒もお料理もお任せで」


「そうなると、長居していただきたいですね」

女将は、クスッと笑う。


「ドキドキしてきました」

本音である。


「あら・・・面白そうです」

女将の瞳がキラリと光った。

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