第132話卒業式にて

卒業式で、江里菜と久しぶりに会った。

受験やらアパート探しで忙しかった。

それもあって、メールもほとんどしなかった。


「晃君は、東京で、私は地元、少し寂しいな」

江里菜は、言葉の通り寂しそうな顔をしている。


「そうだねえ、かなり距離もあるから、なかなか帰れないね」

確かに、電車賃もかなりかかる。

アパート住まいになる身としては、キツイものがある。


「メールぐらいはしてくれる?」

江里菜は、真顔である。


「ああ、迷惑じゃなかったら」


「そういう言い方、すごく寂しい」

江里菜は、ムクレている。


「ごめん、そんな深い意味じゃないって」


「だって、ずーっとメール待ってたんだよ、何も来ないしさ」

「東京に行って、可愛い人見つけるんでしょ」

「だから、私にメールしたくないんでしょ」

江里菜特有の、飛躍した発想になってきた。



「しょうがないなあ・・・」

江里菜の手を握った。


「私が東京に遊びに行ったら、案内してくれる?」

江里菜の肩が、小刻みに震えてきた。


「うん、もちろんさ」


「晃君のお部屋も見たいな」

江里菜の声が小さくなってきた。


「事前に言ってくれれば、掃除しておくよ」


「だめ、掃除は私がする、いろいろ点検する」

江里菜は手を握り返してきた。


「点検って・・・」


「泊まり込みでしちゃうかなあ・・・」

江里菜の指の力が、メチャクチャ強くなった。

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