第131話VSお局様(3)(完)
しばらくお局様を観察していたら、窓口にお局様の知りあいの客らしい、カウンター越しにお局様に声をかけてきた。
すると今までの態度とはガラリと変わり、お局様はその知りあいの客と、そのままカウンターをはさんで話を始めた。
すぐに終わるのかなと思っていたけれど、けっこう長い。
およそ10分ぐらい話をしている。
耳をそばだてて聞くのも失礼と思ったけれど、聞こえて来る限り「夕飯のおかずとか、自治会の話」らしい。
しかも、窓口が相当混雑しているし、電話も多くかかってきている。
それでも、午後3時、窓口業務は終了、一応は平穏な状況になった。
やっと自らの席に戻って来た支店長に、見たままを言う。
「やはり、接客ですとか、協調性、公私のけじめ等に問題を感じますね」
「見た範囲ですが」
支店長は小声で
「できれば異動させてほしいよ、これじゃあ店が回らない」
「わかりました、人事の上位役席にも、現状を伝えますが・・・」
「私にも、彼女と少し話をさせてください」
一方的な判断はよくない、別室で彼女なりの考えを聞くことにした。
質問事項としては
「お客様に挨拶の声をかけない理由」
「店舗の混雑時に窓口を手伝わない理由」
「店舗の混雑時に、知人と私的な会話をしている理由」
その三点に絞った。
別室に呼び、質問を始めようとしたところ、質問の前に、まずお局様から文句が連発。
「人事って暇なんですね!」
「人の仕事を見ているだけで、評価して給料もらっていい商売です」
「楽でいいですねえ!こっちは忙しくて仕方がないんですから、こんな話は1分で終わらせてくださいね!本当に迷惑です!」
「いや、人事は適切に勤務ぶりの評価をし、適切に人事配置を行うのも仕事の一環です、会社全体の円滑な業務遂行のために、必要なんです」
「そして、そのためには適宜、現場の状況を観察するのも、重要なんです」
そう対応しても、文句顔は凄いものがある。
「まず、お客様に挨拶の声をかけているようにはみえなかったけれど?」
「そんなね、窓口や役席がいるんだから、その人たちがやればいいでしょう!私は忙しいんです!」お局様
「店舗の混雑時に窓口を手伝わないのも、その理由ですか?」
「当たり前でしょう!そんなこともわからないんですか?それでよく人事が勤まりますね!」お局様
「店舗の混雑時に、知人と私的な会話をしていたのは?私は支店長の席にいて離れたんだけど、聞こえて来てしまったので」
「いやだ!いやらしい!そば耳立てるなんて!最低です!それに知人が来た時くらい話はしますよ!本当に・・・最低の人間ですね!」
お局様は、プイと怒って席を立ち、別室から出ていってしまった。
別室に支店長と次席を呼んだ。
お局様との面談結果をそのまま伝えた。
「まあ、あなた方の言われるようなお人柄らしいですね」
「ただ、仕事そのものには熱心に見えるので・・・気分転換も必要かもしれません」
「・・・はい・・・何とかなりませんか」
支店長も、どうやら、お局様を異動させたいらしい。
次席も頭を下げてきた。
「来店客のアンケートでも、一番評判が悪いので・・・」
次席は、アンケート用紙の束と結果表を差し出してきた。
「うん・・・」
確かに、結果やアンケート用紙の書き込みを見ると、かなり評判が悪い。
「これ、彼女には?」
見せたかどうか、聞いてみた。
「はい、一度、そっと見せたのですが、ものすごい逆切れして」
「ビリビリに破いたりしたので、見せていません」
次席は、そうとう逆切れされたのだろう、難しい顔になった。
「このアンケート結果と書き込んである用紙は、人事部に持ち帰ります」
「私の上位役席と相談して、善処します」
そこまで伝え、人事部に戻った。
人事部と担当役員にも相談の結果、お局様は人事異動を実施することにした。
新しい配属部署は、彼女が経験したことのない広報室。
人事異動発表と同時に、彼女は大泣きになったそうだ。
「そんな、やったことのない仕事なんて・・・イジメですか!」
人事部にも、抗議の電話をかけてきた。
「会社全体の円滑な業務遂行を目的として、経営者が判断した異動です」
「それに納得できなければ、業務命令に反することになりますよ」
「その後の結果はわかりますよね」
「・・・もし、心配でしたら、相談に乗ります」
「それも、人事の仕事ですから」
結局、お局様は、広報室に異動した。
しばらくして、広報室に出向いたところ、信じられないことが起こった。
お局様が、私に頭を下げてきたのである。
「本当に、あの時は、ごめんなさい」
「人事部の面談なんて、ドキドキしてしまって・・・つい、変な態度してしまって」
「私、切羽詰まっちゃうと、ああなっちゃうんです」
「今の仕事は、慣れないけれど、新鮮で楽しいです」
「本当にありがとうございます」
「・・・ああ、頑張ってください、楽しみです」
サラッと応えるだけにした。
人にはいろんな側面と能力がある。
仕事そのものには、熱心で真面目なので、簡単には評価を下げづらい。
一番困るのは、頑な過ぎることだけど、違う部署に配置すれば、また変わるかもしれないと考えた。
一つの賭けだったかもしれない。
それでも、なんとか解決して良かった、やっとホッとした。
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