第121話ふくよか美人の芳香さん⑤ついに・・・(完)

「これは、完全にコントロールされている」

部屋に入る前の廊下の段階で、焦ってしまった。


「そもそも、未婚の男女、結婚を約束したわけではない」

「そもそも、アパートの隣の部屋で、時々行き来する程度ではないか」

「まあ、お互いに酒を飲んでしまって、気がついたら同じ部屋で朝という事もあったけれど、それは酒が悪いのであって、ナニカがあったわけではない」

いろいろ考えるけれど、しっかり予定を確認せず、ノコノコとついて来てしまった後悔もある。


そうかといって、芳香さんは本当に可愛らしい。

何度も部屋を行き来している間、ずっと同じ部屋にいたいと何度も思った。

ただ、なかなか、俺はそういうことを言い出すのは不器用だ。

もし「え?何を言っているんですか?」と言われたら、どうしたらいいのか、軽く「冗談だよ」も、上手に言えそうもない。



「さて、ここですよ!」

そんな俺の気持ちなど、全く理解していない芳香さんは、ドンドン部屋の鍵を開け、入っていく。


「ねえ、荷物置いて!」

「この窓開けるとね・・・」

「ほら!」


すごい梅の大木が何本も・・・おまけに満開だ。

見とれていると芳香さんが後ろから抱き付いて来た。

ニコニコ声が涙声に変わっている。




「この間、寝言聞いちゃったの」

「だから・・・こっち向いて」

「ちゃんと言って!」


・・・ようやく言えた。



「ブチュ!」

超下手くそなキスと、力任せのハグの後、秘湯の家族風呂に一緒に入った。



今は子供が3人、仕組まれたかもしれない「既成事実化作戦」は、後で考えると、正解だったと思う。


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