第120話ふくよか美人の芳香さん④秘湯にて(1)

アパートの隣の部屋に住むふくよか美人の芳香さんと秘湯に行くことになった。


芳香さんは、朝からウキウキだ。

電車に乗っている時も、おしゃべりが止まらない。

見える風景一つ一つに解説をつける。

おそらく必死にガイドブックやら何やらを読んだらしい。


「ねえ!ちゃんと聞いてます?」

少しでもウツラウツラすると文句まで言ってくる。

少し飲んでしまったビールが気持ちがいいのに、芳香さんは全く理解していない。


おまけにレトロな「冷凍ミカン」まで、食べろと言う。

ビールの後の冷凍ミカンは、はっきり言って美味しくない。

それも芳香さんは全く理解していない。


でも、ちょっとでも文句を言うと、芳香さんは泣き虫だ。

電車の中で泣かれても、それは「コト」だ。

必死に眠気をガマンして、秘湯のある駅に到着した。

思った通り、ひなびた駅に、ちょっと愕然。



「もしかして歩く?」

聞いてみると

「当たり前じゃないですか、汗かかないとビールが抜けないし」

「その後のビールも美味しくないですよ」



「うっ!」と思ったけれど、ここまで来たらしょうがない。

トボトボと山道含めて30分。



「はぁ・・・ここ?」

ここでも、レトロな昭和風温泉旅館が見えてきた。

「露天風呂」と確かに書いてある。


「そうですよ!わぁ、楽しみだなあ!」

芳香さんは、ドンドン受付に入っていく。


受付のお姉さん

「はい、露天風呂で、家族風呂のご予約を承っております」

「タオル、浴衣はお部屋に準備してございます」



「はい、了解です!」

芳香さんは、またしてもニッコリ、部屋の鍵を受け取っている。



「・・・って家族風呂って何?」

聞こうと思ったら、芳香さんがさらに一言


「明日は日曜日ですねえ!一泊もいいかなあ!」


「既成事実化作戦」進行中?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る