第117話痛風を喜ぶ女(3)(完)

「おいおい!」

声を出したところで、その声までが左ひざに響く。


「しょうがないなあ、せっかく見せてあげたのに」

どこまでが本音か、よくわからないけれど美紀はニヤッと笑い、目の前まで歩いてきて、くるっと背を向けお風呂場に歩いていく。


「こらっ!どこ見ている!」

背中に目なんかないくせに、あれは見栄に違いない。

それにしても、美紀は最近ガッチリ体型に変化している。

まあ、そんなこと口が裂けても言えない。

まして、こんなひどい体調の日に・・・



しばらくベッドでうなっていると、美紀がお風呂から出てきた。


「でさ、どうせお風呂入れないでしょ?」

「だからさ・・・」

手には蒸しタオルのようなものを持っている。


「おい!何をする?」

歩ければというか、身体が動けば後ずさりも出来るけれど、出来ない。


「決まっているじゃない、これで身体拭くの」

「ほら、ジタバタしない!」

「自分で出来ないでしょ?」

「わざわざやってあげるのに、文句言わない!」

「臭くなっても困るの!」

一言に対して、数倍の反撃、それも再反撃など全く不可能。


「こら!散々見ておいて、隠してどうする!」

最終爆撃に完全制圧された。


幸いなことに、痛風は3日で回復。

何とか歩けるようになったものの、クローゼットの3分の2は

「私が使うよ」

「誰に面倒を見てもらったの」

「どうせ痛風やらぎっくり腰するでしょ」

「いっそのこと、ここに引っ越すかなあ」

・・・まあ、なんて強い態度なんだ。


「・・・そうなると、俺の自由は?」


「どの口がそんなことを?」

幸い「つねられた」のは、両頬だった。





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