第115話痛風を喜ぶ女(1)

毎晩接待が続いた。

ほぼ、二週間、時には飲酒量が少ない時もあったけれど、必死にこなした。

それでやっと自由になる今日になって、左ひざが曲がらない。

「痛い!」

俺の痛風は、左ひざか右足首に出る。

本当は仕事など休めみたいけれど、痛風なんぞで休んだ場合、どんなことを言われるかわからないのが、俺の職場。


「接待なんていって、毎日飲んでばかりだから、いい気味さ」

「罰に決まっている」

「せいぜい痛い思いをすればいいさ」


まあ、もともと接待が多い職場、他の社員も同じようなことがあり、お互いに「同情」などはしない。

俺だって他の社員がそうなれば、同じことを言う。

同情をお互いにしてしまって、仕事に穴が開くほうが、俺たちの部署には「人手不足だし余程痛い」という事情がある。

そもそも痛風なんぞ、「症状」に過ぎない。

痛かろうがなんだろうが、椅子に座れば仕事はこなせるのである。



そんなことで、痛み止め薬を2倍に飲み、少々足を引きずりながらも、出勤まではこなした。

やはり足を引きずっていても、誰も気にする人はいない。

それが、案外気楽でもある。


「まあ、2倍飲めば1日でおさまるだろう」

「接待もまたすぐにあるからなあ」

そんな気軽な気持ちで椅子に座り、仕事をしていた。


昼休みになった。

「まあ、何とか痛いけれど、食堂ぐらいまでは歩けるだろう」

今の部署から食堂までは、普通に歩いて3分、気軽な気持ちで立ち上がろうとした。

・・・しかし・・・無理だった。


「げ・・・ますます膝がまがらない・・・どうなっている?・・・え・・・痛い!」

触っただけで激痛だ。

次に来るのは、痛みからくる脂汗。

それに、万が一のために持ってきた痛み止めはカバンの中、それも歩いて2分のロッカーにある。

この状態では、ロッカーまで歩くのに5分はかかる。

自分の席に戻って来るのに計10分、とても昼飯なんぞ無理。


机につっぷして唸っていると、頭を軽くポカン。

誰かはすぐにわかった。

クスクスとした笑い声と、ジャスミンの香り。

美紀以外には考えられない。


「帰りはタクシーだねえ!」

「また、押しかけ女房するかなあ」


顔をあげるのも、面倒だった。

面倒くささついでに

「ゴメン」謝った。


「そんなことだろうと思って」

目の前に白湯と強力痛み止め薬がおかれた。


「ありがとう、でもタクシーまでは・・・」


「ああ、1週間は泊まるしさ、私だって着替えとか荷物があるの」

「ふふん、動けないだろうから、お部屋のPCのアヤシイ画像もチェックするかなあ・・・」

美紀の含み笑いは、岩盤のような頭痛になって、のしかかってきた。







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